敬松苑で6月に実施した水害対策訓練。入所者らを車いすに乗せ、エレベーターで上の階に避難させる手順を確認した=杵島郡大町町(順天堂病院提供)

順天堂病院に隣接する敬松苑で、大雨時に浸水を防ぐために導入した止水板=8月、杵島郡大町町(病院提供)

 豪雨や台風の水害で、福祉施設が浸水する被害が全国で相次いでいる。自力で避難ができない高齢者ら災害弱者が入所する佐賀県内の福祉の現場も、対策に腐心している。一方で、水害を想定した利用者の避難計画を作成している県内の施設は約26%にとどまっており、水害リスクが増す中で模索が続いている。

 「ピリピリでした。今年は梅雨が長くて、警報も多くて…」。そう振り返るのは杵島郡大町町の順天堂病院の白濵好美事務長。昨年8月の佐賀豪雨で浸水に見舞われて以降、さまざまなハード整備に取り組んできた。止水板を設置し、職員が乗るゴムボートを導入した。「いつ、どこで集中豪雨になるか分からない。これからは台風も警戒しないと」と心配は尽きない。

訓練の経験生きた

 病院では当時、医療機器は浸水したものの、人的被害はなかった。隣接する高齢者施設「敬松苑」の1階で29人が暮らしていたが、職員とともに上階への「垂直避難」が功を奏して全員無事だった。2017年から毎年、取り組んでいた訓練の経験が生きた。

 白濵事務長は「訓練はイメージを持つことができることが大きい。有事に焦らず、入所している人たちに落ち着いてもらうことにもつながる」と意義を強調する。今年6月にも訓練を実践。マニュアルに沿って、避難にかかる時間やチームの動き方を確かめ合った。

 全国で想定を超える災害が相次ぐ中、熊本県では今年7月、逃げ遅れた高齢者が犠牲になった。特別養護老人ホーム「千寿園」のそばを流れる川が氾濫、1階は水没して全員を助けることができず、14人が亡くなった。

 「ひとごとではない。うちは2階がないから」。危機感を募らせているのは杵島郡白石町の老健施設「白い石」。敷地は周囲の県道より1メートル高いが、建物は平屋になっている。ライフジャケットを常備し、屋上に出るはしごを掛けている。小池茂徳部長(49)は「いざという時、1人ずつ背負って上るしかない。増築するとなれば、費用が課題になる」と明かした。

 高齢だったり、車いすを利用していたりするため、もともと迅速な避難は難しい。別の佐賀市の介護施設からも「エレベーターが動かなくなったら、高齢者を抱えて上がれるか」「夜間は職員が手薄になっている」との課題が聞かれた。

県アンケート実施

 ソフト面でも、避難計画の策定など有効な備えはあるが、具体化は道半ばだ。県によると、川の氾濫で浸水の恐れがある福祉施設や学校など「要配慮者利用施設」で、水害を想定した避難計画を作成しているのは494施設のうち25・9%に当たる128施設(1月時点)にとどまる。

 県長寿社会課は本年度、高齢者施設などを対象にアンケート調査を実施している。どんなリスクがあるか、垂直避難ができるかどうかなどを把握する予定で「個別の指導にもつなげたい」と話している。(中島幸毅、松田美紀)

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