佐賀県を記録的大雨が襲った昨年8月28日の「佐賀豪雨」から1年がたった。甚大な浸水被害から立ち上がり、日常を取り戻した姿は多いが、今も自宅に戻れない人や、土砂災害の復旧が進まず不安を抱えたままの人もいる。1年を振り返ってみる。

 豪雨は午前3時ごろから3時間余りに集中した。武雄市や杵島郡大町町の雨量は1時間に100ミリ、3時間で220ミリを超えた。各地で浸水や土砂災害が発生。大町町では鉄工所からの油の流出被害も加わった。佐賀県などのまとめによると、車が流されたり家屋が浸水したりして3人が亡くなり、浸水などの住家被害は13市町で6060棟に及んだ。道路被害は166カ所、堤防や護岸の決壊など河川被害も266カ所に上った。

 浸水した家屋や店舗の改修は思った以上に時間がかかった。業者や物資の不足が重なり、営業再開に数カ月以上かかった店も多かった。一方、高齢などの理由で改修を見送って住み慣れた地域を離れた人、土砂災害の復旧や家屋改修が進まず自宅に戻れない人、営業再開を断念した店もある。豪雨に日常を奪われた人がいる。

 大規模な土砂災害現場の復旧も遅れている。大町町のぼた山崩落の復旧工事着工はことし7月。武雄市の農業被害工事も5月だった。いずれも国の事業補助の手続きに時間を要した上、新型コロナウイルスも影響した。補助申請が大変なのは事実だが、被災者にその事情は見えにくい。十分な説明が欠かせない。今も地滑りが続いているため、全面通行止めが続く県道もある。

 県内市町は新たな防災・減災対策に取り組んでいる。武雄市や大町町は防災行政無線を受信できる機器の全世帯配布や救命ボート整備を進める。佐賀市や小城市などは地域対応の要になる区長らへの連絡体制を強化した。災害弱者対応の拡充や、災害対応システムの充実を図る市もある。各市町は「防災情報が十分に伝わっているか」「救助体制は整っているか」など多様な視点で体制を点検し、参考になる事例を取り入れたい。

 被災者も教訓を生かして新たな備えを考えている。浸水で多くの商品がだめになった店は、雨の多い時期は仕入れを抑えて在庫を減らすことにした。急な浸水で避難できなかった家庭は、垂直避難を考えて水や食料、カセットコンロなどを2階に常備した。車の事前避難は重要案件という。学びたい。

 民間の支援活動が大きな役割を果たしていることも知っておきたい。武雄市のおもやいボランティアセンターやグリーンコープ生協さがなど、今も地道に被災者を支えている団体がある。みなし仮設住宅で1人で暮らすお年寄りの訪問を続け、地域の新たなコミュニティーづくりを手助けしている。被災者目線の活動でニーズを把握し、行政が手が届きにくいところを支えている。NPOなどこうした団体の活動は、災害対応で欠かせなくなっている。行政は連携を考えておきたい。

 さまざまな現場に教訓や知恵、課題がある。被災から1年を機に、そんなことを話し合う場ができないだろうか。行政の防災担当者や研究者、被災者、市民らが話し合い、佐賀豪雨を教訓にした新たな「備え」を共有できれば「災害に強い町」に近づく。(小野靖久)

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