昨年7月の参院選を巡り公選法違反(買収)などの罪に問われた前法相の衆院議員河井克行被告と妻の参院議員案里被告は東京地裁で開かれた初公判で、共に起訴内容を全面否認し無罪を主張した。弁護側は、検察が有罪立証に有利な供述を得るのと引き換えに被買収側の刑事処分を見送る違法な取引をしたとして公判打ち切りを求めた。

 克行被告は広島選挙区から立候補した案里被告を当選させるため地元議員や首長、後援会幹部ら100人に票の取りまとめを依頼し、現金計2900万円余りを提供。案里被告はうち5人に対する計170万円について共謀したとされる。一方、大半が現金受け取りを認めた100人全員の刑事処分は見送られた。

 過去には10万円でも被買収の罪で起訴されたのに、今回は100万円以上の受領も含め一切おとがめなしとなる。検察は、地元選出の国会議員が相手で断り切れなかったり、すぐに返却したりしたといった事情があるなどとしている。しかし被買収は買収と同様に民主主義の根幹を成す選挙を害する犯罪であり、厳しい処罰が求められる。

 起訴するかどうかは検察の裁量とはいえ、被買収について全てを不問に付し、なかったことにするようなやり方は処罰の公平性を損なう。弁護側は裏取引の主張を前面に据えて徹底抗戦の姿勢を見せており、激しい攻防が繰り広げられよう。

 克行被告らは、自民党本部が案里被告を公認した昨年3月から8月にかけて現金を配ったとされる。参院選は7月4日公示、21日投開票。買収事件では通常、選挙との関係が見えやすい公示後の選挙運動期間中やその直近の現金授受などを調べるが、検察は公認の時点で選挙運動に入ったと判断し、捜査の対象とする期間を広めに取った。

 公判最大の争点は、配った現金の趣旨だ。克行被告らは党勢拡大のための政治活動と主張。昨年4月には統一地方選があり、広島県議や広島市議らに「陣中見舞い」や「当選祝い」を渡したとし、買収目的を全面否定している。ただ現金授受は参院選前月の昨年6月に集中し、選挙がなかった議員にも渡している。

 そうした中、買収相手とされる地元議員ら120人前後に及ぶ証人尋問が行われる。買収との認識があったかどうかなどをただすためだ。広島県在住の全員を上京させるのは難しいことから、一部は東京地裁と広島地裁の法廷をモニターでつないで尋問するという。

 公選法には買収だけでなく、被買収を罰する規定もあり、法定刑は買収と同じ3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金。だが今回、3回に分け計200万円を受け取り、うち50万円を私的に使ったと認めた県議や、50万円を渡されて買収の認識があったとした市議もいるが、誰一人として責任を問われない。

 現金受領を最後まで認めないため、立件を断念したケースもあり、認めた人だけ処分するのは公平さを欠くとの見方も検察内にはあるようだ。

 しかし違和感を覚える国民は少なくないだろう。公の場で経緯を説明した議員や首長もいるが、多くは口を閉ざしている。逃げ得を許すことにならないか。裏取引の疑いを持たれても仕方ない面がある。個別の事情を慎重に見極め、起訴や略式起訴、不起訴の判断をきちんと示すのが筋だ。(共同通信・堤秀司)

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