地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入撤回を受けて、今後のミサイル防衛体制を検討してきた自民党は、ミサイル発射前に相手国内で攻撃する「敵基地攻撃能力」を含めて検討するよう求める提言を安倍晋三首相に提出した。

 政府は提言を踏まえ、国家安全保障会議(NSC)での議論を経て、新たなミサイル対処の防衛体制を決定する方針だ。

 これまで政府は、憲法解釈上、敵基地攻撃能力の保有は法理論的には可能だとの見解を取りながらも、政策的にその能力は持たない方針を堅持してきた。2020年版の防衛白書も「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使する専守防衛」を日本の基本政策だと明記している。

 他国の領域内までも攻撃できる能力を持つことは「専守防衛」からの逸脱ではないか。自民党内にも慎重論があり、与党の公明党は否定的だ。

 安保政策には、緊張を緩和させる「外交努力」の要素が欠かせない。軍事力だけに偏らない慎重な議論を求めたい。

 自民党の提言は、北朝鮮のミサイル能力の向上などで日本を取り巻く安保環境は厳しさを増していると指摘。イージス・アショアに代わる防衛体制の早急な具体化を要求し、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を含めて検討するよう求めた。

 自民党はこれまでも「敵基地反撃能力」などの表現で同様の提言をしてきた。今回はイージス・アショアの撤回を受けた状況で、安倍首相は「新しい議論をしたい」と検討に前向きな姿勢を示唆している。議論を厳しく注視する必要があろう。

 ただ、自民党の提言は党内の慎重意見を踏まえ、条件を付けている。「敵基地攻撃能力」や「打撃力」という表現は直接使わず、「憲法の範囲内で、国際法を順守し、専守防衛の考えの下」で抑止力を向上させると指摘。「自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来の方針を維持する」とも明記した。

 こうした慎重論を尊重すべきであり、前のめりの議論は慎むべきだ。

 攻撃能力の保有には課題が多い。日米安全保障条約の下、米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担が日本の防衛政策だった。日本が打撃力を持つならば、その関係を見直す議論になろう。

 提言は「日米の基本的な役割分担は維持しつつ、日本がより主体的な取り組みを行う」とした。ミサイル防衛能力の向上のため米国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)との連携も盛り込んだが、米軍の武力行使と一体化するような連携であれば憲法上の論点になろう。

 技術的な課題もある。防衛白書は、北朝鮮のミサイルについて、車両や潜水艦からの発射を繰り返しており、「発射の兆候を事前に把握するのが困難」と指摘する。それをどうやって攻撃するのか。

 実効性のある攻撃には、射程の長い巡航ミサイルに加え、発射兆候をつかむ能力や相手国の防空用レーダーを無力化する装備体系が必要になる。費用対効果を見極める必要もあろう。

 安保政策では「脅威」は「意図」と「能力」の掛け算だとされる。「脅威」を減少させるには、相手国の「意図」をゼロに近づけていく外交努力が重要になるということだ。その観点を抜きにした議論は成り立たない。(共同通信・川上高志)

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