マリー・アントワネットといえば、苦しい国家財政をよそに、ぜいたくを尽くし国民の反感を買ったフランス王妃。そんな彼女が愛した花は、バラでもユリでもなく、ジャガイモだったという。畑で見かける、あの白や紫の小さな花を髪飾りにして、舞踏会へ出かけた◆もっとも、それはジャガイモの栽培普及のPRでもあったらしい。夫ルイ16世はジャガイモ畑にわざと「王侯貴族の食べ物だから盗んではならない」と見張りを立てた。禁じられたら余計、食べたくなるのが人情である。夜中に盗み出されたジャガイモは、こうして庶民の間に広まった(稲垣栄洋『キャベツにだって花が咲く』)◆近ごろ野菜の高値が続いている。長雨や日照不足に加え、ジャガイモなどは新型コロナで家庭の「巣ごもり需要」が価格を押し上げている。普段気にもかけないくせに、手が届かなくなると余計、食べたくなるのも人情である◆「三里四方」という古い言葉がある。半径3里(約12キロ)内で栽培された野菜類を食べていれば、長寿でいられるという先人の知恵である。世界中からモノが届く現代は便利だが、市場に振り回されてばかり◆フランス革命で斬首台へと送られる王妃は語ったという。「不幸になって初めて、人は自分が本当に何者であるかを知る」。食卓さえ頼りないわが暮らしを省みる。(桑)

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