水に落ちた人を大勢で引き上げている。「泰」という漢字は、そんな様子を表しているらしい。たしかに「水」の上で「人」が棒をいくつも渡し、救出劇のさなかに見えなくもない。各地に洪水被害をもたらした前線がようやく去って、ああよかった、これで安心、と「安泰」の意味をつくづく実感する◆雨が降って川になり、海へ注いでまた雨雲が立ちのぼる…水が生まれる循環は近ごろ、どこかで不全を起こしている。人びとを苦しめる自然のほころびをどう繕うか。そんなことに思いをはせる、きょうは「水の日」◆県内の小中学生も待望の夏休みを迎えたが、今年は新型コロナ対策で、学校のプールでは泳げない。もっとも、最近は猛暑でプールの水温が上がりすぎ、熱中症の心配から泳ぎが中止になることもしばしば。気候変動は子どもたちを、水とのふれあいから遠ざけている◆石垣りんさんに「水」という詩がある。小学生のころに泳いだプール。〈どんなに教えられても/じょうずに泳ぐことのできなかった子は/苦い水をどっさり飲んで年をとりました〉◆人は水の中であがくように人生を泳いでいく。〈くぐりぬけたさまざまなこと/試験、戦争、飢え、病気/どれひとつ足の立つ深さではなかったのを〉。今また環境問題や疫病におぼれそうな時代。ひたすら「泰平」を祈る。(桑)

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