川﨑辿皇君が亡くなった事故から1年になるのを前に、仏壇に手を合わせる母親の明日香さん=唐津市浜玉町

事故があった現場には風車や飲み物が手向けられている=唐津市の虹の松原

 佐賀県唐津市の虹の松原を通る県道で、当時小学5年の川﨑辿皇(てんこう)君が亡くなった交通事故から20日で1年になる。母親の明日香さん(38)は悲しみが癒えないまま。「事故を忘れられるのが一番つらい。今のままでは、また同じことが起きてしまう」と事故のない道路づくりへの思いを強くしている。

 2019年7月20日、市内の書店に車で向かう途中だった。「おいしいから飲んで」。辿皇君は運転する明日香さんに、好きな飲み物を何度も勧めてきた。断り続けるとすねて、車内は静かな時間が流れた。

 「急にドンと音がした」。折れたマツの木が明日香さんの車に落ちてきたという。助手席を見ると辿皇君はぐったりしていた。「声を掛け続けても返事はなかった」。救急隊と、救助に当たった医師からは「治療目的の搬送ではないと思ってください」と告げられた。介護職の経験がある明日香さんは、言葉の真意を感じ取った。

 「とにかく人に優しく、正義感もある子だった」。海の生き物が好きで、タコを捕まえた時は、自らさばいて料理を振る舞った。家では率先して手伝いをし、お小遣いをためて「ママへのプレゼント」と指輪を買ったこともあった。

 今年の6月5日の誕生日、辿皇君は12歳になるはずだった。明日香さんは「あの子がいないなんて、思ってもみなかった」。食卓には辿皇君の大好物だった唐揚げが並んだ。

 明日香さんは、マツの伐採と松原の保全に揺れる行政の事故後の対応に、もどかしさを感じてきた。「歴史や景観と言うけれど、身内に事故が起きても、そう言えるだろうか」と声を詰まらせる。伐採までに8カ月を要し「そこまで大切にするなら、余計に道を安全にしてほしい」と願う。

 事故後、明日香さんは自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで佐賀地検に書類送検されたが、不起訴処分になった。運転免許取り消しを前提にした通知があったが「居眠りをしたり、携帯電話を使ったりしていたわけではない」と意見書を提出するなどして、150日間の免許停止処分に軽減された。

 明日香さんは月命日には事故現場に足を運び、辿皇君の好きだったジュースやお菓子を置いて手を合わせる。現場には明るかった辿皇君をしのぶヒマワリの風車かざぐるまが、風に揺れている。19日、唐津市内の寺院で1周忌の法要が営まれる。

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