英国で田舎の農夫がロンドンにやってきて、「ハムレット」の舞台を初めて見た。「さすがシェークスピアは天才だな。ことわざだけで芝居を書いたんだから」◆そんな勘違いをするほど人生の教訓に満ちた悲劇は、「To be,or not to be…」のせりふで知られる。「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」。近ごろはこれをもじった皮肉もささやかれているらしい。「Go To,or not Go To」。行くべきか、行かざるべきか…政府の観光支援事業「Go To トラベル」である◆東京都はきのう新型コロナ感染の警戒レベルを最高に引き上げた。各地で豪雨災害が起きているさなかでもある。一刻も早く経済を動かさなければ業界がもたない、という危機感はわかるが、不安に覆われた旅が楽しいはずはない◆「全国一律ではなく、地方の実情に合わせて」と県内の首長からも声が上がる。コロナ禍が突きつけたのは、外国からの誘客に過度に依存した観光政策のもろさでもある。いまはまず、住民が地域の魅力を見つめ直す時機だろう◆シェークスピア劇翻訳の第一人者、小田島雄志さんの手によれば、かの名せりふはこうなる。「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」。さすがシェークスピアは天才だな。日本政府への警句に聞こえる。(桑)

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