子どものころ習い覚えた唱歌には、意味もわからず口ずさんだ歌詞も多い。♪春高楼の花の宴…で始まる「荒城の月」は代表格だろう。2番には〈植うる剣(つるぎ)に照りそいし〉とある。刀を土に植える…はて?◆刀はよく研がれたものより、刃先が少しざらついたほうが実戦向きらしい。鋭利に研いだ刺し身包丁も、脂肪の多い牛肉や豚肉は切りにくい、という料理の世界と似ていなくもない。むかし武家は門の脇に盛り土があり、いざ出陣の際は刀剣をざくざくと突き刺し、刃先をざらざらにして出発した。そんな史実を知ると、歌の味わいも違ってくる◆歴史は世界の見方を豊かにしてくれる。『彷徨(さまよ)える日本史』(幻冬舎)という新刊が届いた。著者の源田京一さんは定年退職後、独自の視点で史実に切り込むシリーズをすでに2冊刊行。この3冊目は「葉隠」がテーマである◆今年は「葉隠」に影響を受けた作家三島由紀夫の割腹自殺から50年。「葉隠」を口述した山本常朝と三島の類似性を語りつつ、クーデター未遂事件の背景に迫る野心作である。自在な解釈で歴史と遊ぶ、著者の楽しげな様子が、活字の向こう側にほの見える◆佐賀人が知っているようでよく知らないのが「葉隠」の世界かもしれない。時代を超えて人のこころをとらえる魅力は、さまざまな解釈を許す懐の深さだろうか。(桑)

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