九州から本州にかけての広い範囲で雨が降り続く中、記録的な大雨に見舞われた熊本県南部の高齢者施設で、浸水のため入所者14人が命を落とした。夜間に敷地のそばを流れる川が氾濫。すさまじい濁流が施設1階に押し寄せ、職員や地元住民ら20人前後で入所者を2階に運んだが、想定を上回る勢いで水かさが増し、助けきれなかった。

 近年、地球温暖化の影響もあって「数十年に1度」の大雨が各地で頻繁に観測され、「過去に災害がなかったから大丈夫」といった常識は通用しなくなった。河川の氾濫や家屋の浸水、土砂災害などが相次ぎ、高齢者施設が次々に被災し、逃げ遅れた人たちが犠牲になる例が後を絶たない。

 熊本の施設は川の氾濫で浸水する恐れのある「要配慮者利用施設」。法律で避難計画の策定や訓練を義務付けられ、年2回の訓練を実施。地域住民らの協力も得て入所者を2階に移動させたり、施設外に運び出したりする手順も確認していた。それでも手の打ちようがなく、高齢者避難の難しさを浮き彫りにした。

 寝たきりや車いすの人など自力で動けない入所者が多く、もともと迅速な避難は厳しい。さらに想定外の事態や混乱が重なる過酷な状況下で、高齢者をいかに守るか。施設同士で災害の経験を共有して避難計画を練り直す一方、災害リスクの高い場所からの移転を着実に進める必要がある。

 14人が犠牲になったのは、熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」。村は3日夜、避難勧告を出し、球磨川の水位が急激に上昇し「氾濫危険水位」を突破した4日未明には避難指示に切り替えた。そのころ千寿園ではエレベーターがないため、入所者1人を4、5人がかりで2階へと運んでいたが、そこへ、窓ガラスが割れて一気に水が入ってきたという。

 施設長は「夜勤のわずかな職員が数十人の利用者全てを避難させるのは無理だった」と振り返った。避難計画があっても、人手が減る夜間などは役に立たないことがあると専門家は指摘する。

 高齢者施設はこれまでも、繰り返し災害に巻き込まれてきた。2009年7月に山口県防府市で大雨により発生した土石流で特養の入所者7人が死亡。16年8月には台風10号で岩手県岩泉町の高齢者グループホームが浸水して入所者9人全員が亡くなった。これをきっかけに国は17年、要配慮者利用施設に避難計画策定などを義務付けた。

 ただ策定済みは昨年末時点で全体の約36%にとどまる。避難先確保が困難、専門知識の不足などがネックになっているとされ、国や自治体による後押しが必要だろう。

 最大の課題は、こうした施設の立地だ。高齢者や障害者ら災害弱者を受け入れる施設は「迷惑施設」などと地元から敬遠されがちで、地価が安いなどの理由もあって結果として、浸水地域など危険な場所での立地を余儀なくされることが多いという。より安全な場所への移転を急ぐ必要があり、新設も含め資金面の援助や公有地の提供など国の支援が欠かせない。

 自宅から避難しようとして命を落とす高齢者も目立つ。市町村は「避難行動要支援者」の名簿をつくり、個別の避難計画策定を進めている。希望があれば災害時、1人につき2人以上の支援者をつけるが、こうした態勢の拡充も求められる。(共同通信・堤秀司)

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