風のない夏の夕暮れ、野道を歩いていると、ちょうど顔のあたりに小さな羽虫が群れ飛んでくる。払っても払っても、うるさくつきまとわれて困る◆昔の人はあれを、「まくなぎ」とか「めまとい」と呼んだ。ヌカガやユスリカといった小さな蚊のことだが、これが出ると雨が近い。あるかないか姿かたちもはっきりしない微小な生きものさえ、自然の動きを知る手がかりだった◆いまアフリカ東部からインド、パキスタン一帯は「めまとい」どころではない、バッタの大群に穀物を食い荒らされている。バッタはふつう単独で行動するが、大量の雨で地中に眠っていた卵が一斉にふ化したため、過密が引き金になって飛ぶ能力が高い群れに変異し、被害を広げているという◆その原因がインド洋の海面水温の変化といわれる。アラビア半島はサイクロンに見舞われ、豪州は雨不足で森林火災が多発した。異常気象によって昆虫や動物の分布が変われば、ウイルスや細菌が広がりやすくなり、新たな感染症も懸念される。小さな生きものが知らせる警告は重い◆県内をはじめ九州各地を襲った大雨は、きのう列島を縦断するように東北にまで及んだ。年々深刻化する豪雨災害も、大量のバッタが生まれた自然の変調と、どこかつながっているように思えてならない。「虫の知らせ」というやつである。(桑)

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