起こってほしくないこと、考えたくもない最悪の事態は、起こる確率が低い…人はそう思いたがる。熊本県南部を襲った豪雨で、褐色の濁流にのまれた球磨川流域の光景に、そんな自分の浅はかさを知る。まるで昨夏の佐賀平野を見ているようで胸がふさぐ◆熊本出身の俳人中村汀女さんが、幼いころの荒梅雨の思い出を書いていた。夜半目ざめると、父母の声が聞こえる。大雨につつまれていても、そばに寝ていると安らぎを感じた、と。被災地にはきのうも強い雨が降った。孤立し、身を寄せ合って救助を待つ人たちがまだ残っている。早く、早く。同胞を見るような、もどかしい思いが募る◆穏やかだった田園風景が一晩で荒れ果てた被災地に変わる。そんな豪雨災害が繰り返されている。積乱雲が次々に発生する「線状降水帯」が元凶らしい。国は12時間前から正確に予測できないか、長崎県や鹿児島県で実証実験を進めている◆積乱雲は30分程度で急速に発達し、1時間ほどで消えるため予測が難しい。海側から温かく湿った空気が大量に流れ込むメカニズムに着目し、最新鋭の観測機器で大気中の水蒸気量から線状降水帯の発生時間や場所を割り出す◆実験は再来年度まで続くという。起こってほしくないことが、いつまた起こるかわからない。早く、早く。もどかしい気持ちは募る。(桑)

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