対馬の村で地区の古文書を見せてほしいと依頼したら、寄り合いで長い間、協議が続いた。日本の辺境を歩いた民俗学者宮本常一の「忘れられた日本人」に、そんな話が出てくる。寄り合いは2日も3日も続き、夜を徹して行われることも珍しくなかったという。昔の日本に、戦後に輸入された民主主義とは違う、地域の意思決定システムがあったのだと気づかされる。

 それが、過去の他人事ではないと教えてくれたのが、県有明海漁協の組合長選びだ。理事9人から1人を選ぶ仕組みで、通常は総代会で決まる。これが決まらず、丸々3日間も協議が続いた。

 「一体、どうなっているのか?」。多くの人に聞かれたが、一言で言えば、漁協に「投票しないルール」があるためだ。20近い漁協が集まった県有明海漁連当時からの伝統で、組織を割らない知恵と言える。

 「こんな長い間、もう話すことも無いでしょう」。隣の記者がつぶやいた通り、協議中は沈黙が続いたかもしれない。しかし、その沈黙の時に相手候補や周囲への配慮、自省などが生まれるのかもしれない。現代では投票による多数決が当然と考えられ、きわめて効率的だが、それにより失うものも無視はできない。

 漁協は今後、オスプレイの配備計画を協議することになる。意思決定には相当、時間が掛かりそうだが、組合員みんなが納得できる答えを目指してほしい。

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