日本と米国の相互協力をうたった現行の日米安全保障条約は23日、発効から60年を迎えた。この日は、太平洋戦争末期に米軍との地上戦が展開された沖縄戦の終結から75年の慰霊の日でもある。

 戦後の日米関係は沖縄戦が起点となる。沖縄陥落から本土攻撃は激化し、終戦。米軍を中心とする連合国軍による占領時代を経て、日本は1952年のサンフランシスコ講和条約で沖縄を切り離して主権を回復。同時に結んだ日米安保条約によって東西冷戦下で西側陣営の一員となった。

 日米両国の「対等性」を目指して60年に改定された現条約の下、日米同盟は日本の外交・安保政策の基軸とされてきた。だが、その同盟関係は今、重大な岐路にある。

 「米国第一主義」を掲げるトランプ米政権と中国の大国化、新型コロナウイルスが問い掛ける分断と協調の在り方―。変容する国際秩序の中で日米同盟をどう位置付け、日本はどういう役割を果たすのか。根本からの見直しが迫られている。

 その際、忘れてならないのは歴史に学ぶ謙虚な姿勢だろう。75年前、沖縄は本土防衛の「捨て石」とされ、県民の4人に1人が犠牲になる悲惨な戦闘が繰り広げられた。そして、72年の本土復帰後も過重な基地負担を強いられている。

 軍備を増強し、緊張を高める戦略を机上の論理だけで進めてはならない。安全保障には必ず現場があり、そこには人が暮らしているのだ。沖縄戦のような歴史を繰り返さぬよう、外交を基盤とし、地域の安定と国際協調に貢献する同盟戦略の再構築を求めたい。

 60年前の安保条約改定後、日米は同盟強化の道を歩んできた。自衛隊と米軍の役割を定めた防衛協力指針(ガイドライン)を策定、集団的自衛権の行使を解禁する安全保障関連法も制定した。

 だが、トランプ大統領は現行の安保条約を、米側だけが防衛義務を負う「不平等条約」だと批判し、巨額の米国製防衛装備品の購入や米軍の駐留経費負担増を要求している。日米同盟の意義を理解しているのだろうか。

 この状況下で、安保政策を問い直す契機が生じた。米国に迫られて購入を決めた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の技術的な問題点が判明し、導入計画を停止したことだ。

 安倍晋三首相は、安保政策の新しい方向性の議論を今夏に本格的に行うと表明した。2013年末に初めて策定した「国家安全保障戦略」を改定する方向だ。国際情勢の変化や11月の米大統領選の行方も見極めた熟議と、国民への説明責任を果たす議論を求めたい。

 気になるのは、軍備増強の議論が先走っていることだ。首相はミサイルが発射される前に相手国の基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有も検討する考えを示唆した。日米同盟では基本的に、日本は専守防衛の「盾」に徹し、攻撃の「矛」は米国が担う役割分担だった。だが、首相の念頭にあるのは日本が打撃力を持つことではないか。

 政府は沖縄県民の反対にもかかわらず名護市辺野古で米軍基地の移設工事を続け、南西諸島への自衛隊配備も進めている。米軍は中距離ミサイルの沖縄・九州地方への配備を検討しているという。これ以上の負担を沖縄に強いていいのか。「捨て石」を二度とつくらない戦略が問われている。(共同通信・川上高志)

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