ぜひとも一度お目にかかってお願いしたいことがありますので、恐縮ながらお時間を取っていただけないでしょうか…。〈などという厚顔(あつかま)しい申し出がいちばん困る〉と評論家の谷沢永一さんが書いている。「電話でなら」とそのまま用件を問えば、むだ話が多くてなかなか本題に入らない。「用件だけ聞きます」といらだってばかり◆取材でしょっちゅう要領を得ない電話をしてきた身には、いささか耳の痛い話である。青い電話帳で相手の自宅を探し、「あった」と勇んで何の心づもりもなくダイヤルするから、何度ひんしゅくを買ったことか◆そんな苦い思い出もあるNTTの「ハローページ」が来秋以降、発行を終えるという。近ごろは携帯電話の普及で、たまに固定電話が鳴ればアンケートか勧誘。詐欺も怖い。掲載世帯が全加入者の2割足らずに落ち込むのも、むべなるかな◆日本で初めて東京―横浜間に電話がつながった明治23(1890)年、1枚の紙に書かれた「加入者人名表」がハローページの起源。大隈重信や実業家の渋沢栄一ら197人が名を連ね、「紳士録」さながらだった◆電話が特別なものではなくなって分厚くなった電話帳も、内輪の「つながり」が大事にされる時代には邪魔になる。電話のかけ方一つにも礼儀があると教えてくれた人と、もう出会うこともない。(桑)

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