昨年7月の参院選を巡り、東京地検特捜部は公選法違反(買収)容疑で前法相で衆院議員の河井克行容疑者と、妻で参院議員の案里容疑者を逮捕した。案里容疑者が広島選挙区から立候補し初当選した選挙で、票の取りまとめを依頼する目的で地元議員や後援会幹部ら約100人に計2500万円余りの現金を配った疑いが持たれている。

 夫妻は国会会期末の17日、自民党に離党届を受理された。車上運動員に法定上限を上回る報酬を支払ったとして、案里容疑者の公設秘書らが広島地検に逮捕・起訴された公選法違反事件は、大掛かりな現金買収により現職国会議員夫妻がそろって逮捕されるという前代未聞の展開となった。

 克行容疑者は安倍晋三首相に近く、党本部は改選2議席の広島選挙区で地元県連の頭越しに案里容疑者を擁立。自民現職、野党系無所属の現職と三つどもえの激戦となった。案里容疑者側に党本部から提供された資金は1億5千万円。落選した自民現職側の10倍に当たるなど、買収事件の背景には、党本部の尋常ではない肩入れがあった。

 首相に近い人物が優遇されるという森友・加計問題に通じる構図も見て取れる。買収が事実なら、民主主義を支える選挙の公正さを揺るがす行為で許されないが、選挙後に克行容疑者を法相に起用したことも含め、首相と党の責任は大きいと言わなければならない。

 克行容疑者は案里容疑者が立候補を表明した昨年3月から8月にかけて票の取り込みを図り、広島県議や広島市議、県内の首長、後援会幹部ら91人に1人当たり5万~数十万円、計約2400万円を配り、案里容疑者も5人に計170万円を渡した疑いがある。買収は克行容疑者が主導。党本部からの資金が充てられたとみられている。

 家宅捜索で夫妻の自宅から現金配布先のリストが押収され、約100人の大半は受け取りを認めているが、克行容疑者らは買収行為を否定。昨年4月には統一地方選があり、現金の趣旨が買収だったか、それとも当選祝いや寄付だったかが今後の焦点となるだろう。

 案里容疑者の陣営で選挙運動を取り仕切っていたのは克行容疑者というのが大方の見方だ。案里容疑者の公設秘書に懲役1年6月、執行猶予5年を言い渡した16日の広島地裁判決も、法定上限を上回る車上運動員への違法な報酬を前提とする遊説活動には克行容疑者らの意向が強く反映されていたと認定している。

 法定上限を順守した報酬で人を集めるのは難しいという不満の声は他の陣営にもあったが、だから違反してもいいということにはならない。まして現金ばらまきは極めて悪質というほかない。

 ところが違法報酬疑惑が週刊誌で報じられ、克行容疑者が法相を辞任してから8カ月近く、夫妻は説明責任から逃げ回り、いまだに口を閉ざしたままだ。この間、案里容疑者は公設秘書の判決が確定し検察が提起する行政訴訟で連座制の適用が認められるか、買収事件で自らの有罪判決が確定するかで失職―というところまで追い込まれた。

 夫妻は議員辞職しない意向という。だが、もはや、まともな議員活動は期待しようもない。その上、国民に疑念を抱かせたまま説明責任を果たすこともできないなら、いつまでも議員の職にしがみつくべきではない。(共同通信・堤秀司)

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