新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、一部の国が自国の食料確保を理由に、食料の輸出規制を始めている。こうした動きが広がれば、食料不足や食料危機が発生する恐れがある。安定供給を維持するため、輸出国の自制と国際協調が求められる。

 食料の輸出を規制している国は十数カ国に上る。ロシアが小麦の輸出量に上限を設定したのをはじめ、カンボジア、タイ、ベトナムなどが、農産物や食品の輸出を禁止したり、上限を設けたりしている。感染拡大により経済活動が停滞し、生産が減少することを懸念して、国内市場への供給を優先させた形だ。

 世界貿易機関(WTO)のルールでは、食料が危機的に不足する事態を除き、原則として輸出規制を禁止している。まず、これらの輸出規制がルールに違反していないかどうかを検証する必要がある。

 他の国々は危機感を強めている。20カ国・地域(G20)の農相は臨時会合で、食料の安定供給確保のため、不当な輸出規制を行わないことを柱とする共同声明を採択した。WTOに加盟している有志23カ国・地域も、農産物の輸出規制を実施しないよう求める共同声明を出した。いずれも価格上昇や食料不足につながりかねないと警告している。

 現時点では世界の食料在庫は十分あり、輸出規制の影響は限定的とみられる。しかし、コロナ禍が長期化した場合、経済活動の停滞により食料の生産が減少し、物流網の混乱が続けば、供給が落ち込むかもしれない。そのとき、輸出規制は価格の高騰をもたらし、世界に打撃を与える恐れがある。

 最も心配されるのは、食料の多くを輸入に依存している発展途上国だ。アフリカ諸国などでは栄養状態が悪く、飢餓に苦しむ人口が多い。こうした国々に価格高騰が加われば、食料危機に発展する可能性がある。輸出規制の長期的な影響を軽視してはならない。

 輸出規制を実施している国々には、規制がWTOのルールに照らして妥当か、本当に必要か、再考を求めたい。G20など主要国は、協調して農産物の生産や流通などの動向を注視し、価格高騰と食料不足の回避に努めるとともに、途上国の農業振興や食料援助の態勢を強化してほしい。

 食料の生産や物流の各部門で新型コロナウイルスの感染を防ぎ、供給の基盤を安定させることも重要だ。主要国が結束してコロナの感染拡大を食い止めることこそ、最大の対策である。

 日本の場合、今のところ食料の確保に不安は生じていない。主な輸入元である米国やカナダ、オーストラリア、ブラジルなどは輸出規制をしておらず、今後、そうした措置を取ることもまず考えられない。主食のコメは自給しており、国家備蓄もある。

 仮にコロナ禍が長期化し、食料価格が高騰しても、日本には購買力があり、輸入することができる。過去の同様の例でも、日本で深刻な食料不足は起きなかった。

 ただし、一つ心配なのは、物流が途絶して食料輸入が物理的に妨げられるケースだ。これに一国だけで対応することはできない。日本はWTOやG20の国際会議などの場で、輸出国に安定供給の重要性を繰り返し訴えるべきだ。(共同通信・柳沼勇弥)

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