長い夕暮れが終わるころ、散歩に出ると、足下を淡い小さな光がすーっと横切っていく。最近は住宅街のちょっとした水路にも、ホタルが飛ぶようになった◆ホタルはおおよそ1年かけて、卵から成虫になる。水の中から〓(は)い出し、やっと自由に飛べるようになって2週間ばかりのいのち。その最期を水しか飲まず、ただ子孫を残すために費やすという◆ひときわ光鮮やかなゲンジボタルの生態は陰影に富んでいる。同じ環境に生息していても、育ち方はそれぞれ違う。中には春先になっても陸へ上がれない幼虫もいる。その年、さなぎになることをあきらめ、翌年まで水の中で栄養を蓄える。成虫でいられる2週間のために、もう1年を耐えるのである◆SSP杯県高校スポーツ大会がきょう開幕する。新型コロナの影響でインターハイや甲子園の夢がかなわなかった高校生の区切りとなる舞台。進学や就職準備のため、参加できない選手もいる。運動部と同様、全国を目指しながら涙をのんだ文化部の生徒もいる。アスリートたちの輝きの背後に、じっと試練に耐えながらエールを送る「幼虫」たちがいることも胸に刻みたい◆〈暗道(くらみち)のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれはいかなる河か〉前登志夫(としお)。人生は曲がりくねった川のようでもある。少しばかり回り道をしたホタルもいつか立派に光る。(桑)

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