来年夏の東京五輪・パラリンピックの運営を当初計画よりも簡素にする方向で政府、東京都、大会組織委員会の3者が検討を進めることになった。

 1年延期となったことで追加費用がかさむと見込まれる中、新型コロナウイルスの世界的な感染が来夏までに完全には終息しない最悪の状況を想定し、規模縮小を検討するのは危機管理として当然だろう。

 五輪の核心的な価値は言うまでもなく、競技そのものにある。競技との結び付きが弱いイベントなどについて、削減するか規模を縮小するのは理にかなっている。

 東京五輪の準備では、過去に例がないほど数多くの式典がつくり出されてきた。国民の関心は高く、機運醸成イベントなど特に必要ないのに、2017年に開幕千日前、18年に2年前、昨年は1年前の各式典を催すといった具合だ。

 背景には、組織委にとって財政的に支えてもらっている協賛企業に対するサービスがある。組織委の予算は五輪史上最大規模の6300億円。収入の柱は国内のスポンサー企業による協賛金で、総額3480億円となっている。

 組織委は、各企業が大会を協賛するメリットを実感でき、企業イメージ向上に結びつく宣伝の機会を設けなければならない。大規模イベントを頻繁に開催することで回転する五輪ビジネスの歯車がそこにある。

 組織委は来年、全国を巡る聖火リレーの際、各地での祝賀行事や各スタート地点の出発式などを催す計画だったが、これらを取りやめるか、規模を縮小する方向となった。

 市民は地域の代表が聖火を掲げて走り、沿道から声援を送ることができれば、五輪との結びつきを実感するはずだ。人気タレントが笑顔を振りまくイベントがなくても、寂しく感じることはない。

 驚くのは約900万枚用意し、今後売り出す枠もある五輪チケットについて、販売にブレーキをかける検討が始まったことだ。競技場でいわゆる3密をつくり出さないためには、観客席は満員にしない方が良いとの考えらしい。

 しかし、ここは慎重さが求められる。閑散とした観客スタンドは五輪の理想ではない。そもそも大会の追加費用を賄うためには、チケットを完売する必要があるはずだ。財政的に大丈夫なのか。

 無観客で始まるプロ野球やサッカーのJリーグは今後、感染の収束が順調に進めば秋には観客を入れて試合ができるかもしれない。五輪に先立って来年、広域開催される欧州サッカー選手権では、大サポーターが国境を越えて移動し続ける光景が見られるかもしれない。

 コロナ対策は今後のさまざまなスポーツ大会の状況を確認した上で、具体的に検討すべきだ。

 開会式と閉会式は五輪とパラを合体させれば経費が浮くとの見積もりもあったが、さすがにこれは国際オリンピック委員会と国際パラリンピック委員会が独自の式典は極めて重要だと難色を示したようだ。

 何が何でも簡素化し、経費を圧縮しようとすれば、五輪とパラの本質的な価値を損なう恐れがある。その典型例だろう。

 人々の記憶に長く残る、感動的な大会を実現しようと、政府も東京都も組織委もここまで努力してきた。困難な状況でも、この理想を大切にしたい。(共同通信・竹内浩)

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