「最近は新聞の言葉が難しくて…」。長年の愛読者とおっしゃる女性から電話をいただいた。都内で新型コロナの感染が再び広がりかねない、と出された「東京アラート」のことである◆例えば「クラスター」は「感染者集団」と説明があるのに、「アラート」にはそれがない。「警戒」って意味なんですがねぇ、と答えつつ、ふと考え込む。日本中が警戒心を解けないでいるいま、どれほど切迫した事態を指すのか、確かに難しい◆山本周五郎に苦い回想がある。雑誌の編集者時代、高名な大学教授にインタビューした。テーマは「レントゲン」だと事前に伝えていたのに、教授は「それは何のことかね」と嫌みっぽい。困って説明すると、「ああ、レンチヘンのことか」と専門知識をひけらかすように言ったという◆若き日の作家を怒らせた学者と、横文字がお得意の都知事を並べては失礼だが、自分たちだけ通じる言葉では大衆が置き去りになる。都内で感染者が増え続ける一因も、「伝わりにくさ」にありはしないか心配になる◆近ごろは防災情報も「伝え方」に工夫が求められる。大雨特別警報はもう「解除」とは言わず、警報や注意報に「切り替え」という表現で引き続き警戒を呼び掛けるとか。で、お前さんたちはどうなんだい? 受話器の向こうから厳しめに問われた気もしている。(桑)

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