コロナ禍は文化事業を全面的な停止へと追い込んだ。コンサートやライブ、映画、展覧会の中止や延期が相次ぎ、緊急事態宣言が解除されてなお、深刻な影響が続いている。

 佐賀県内でも大正時代から続く、国内最古の美術展「佐賀美術協会展(美協展)」が中止となった。太平洋戦争による昭和19年と20年以来、戦後初めてである。

 美協展は佐賀の地域文化のアイデンティティーそのものだ。日本の近代絵画をリードした岡田三郎助ら、佐賀を代表する画家たちが、故郷に美術の土壌を培うという狙いで立ち上げたからだ。その志は脈々と受け継がれており、一般公募の部は若手の登竜門という役割がある。人間国宝をはじめとする佐賀を代表する一流作家たちの新作ととともに並ぶ機会は、創作への意欲をかき立てる。

 それだけに中止は残念でならないが、毎年約300点の作品が寄せられる大規模な公募展という性格上、作品の運搬や審査などに多くの人がかかわる。やむを得ない判断だっただろう。

 だが、このまま文化事業の中止が続くようでは、先細りしていくばかりだ。いかに、ウイルスと共存するか、「ウィズ・コロナ」を考える段階に入った。

 鍵を握るのは、ICT(情報通信技術)である。米スミソニアン協会は、博物館や美術館の収蔵作品280万点の高精度デジタルデータの公開に踏み切った。最終的には収蔵する1億5500万点の完全公開を目指すという。

 日本博物館協会も、先月公開した感染拡大予防ガイドラインで「博物館が提供可能な情報をオンライン上で利用できるコンテンツの公開」を後押ししている。

 オンライン化は、九州でも広がる。北九州市立美術館は、開幕しないまま終了した全国巡回展「再興第104回院展」を動画撮影し、ネットで無料配信した。観覧者の視点で撮影した映像は、ゆったりとした音楽とともに、会場を訪れた気分を味わわせてくれる。

 音楽分野では九州交響楽団が、動画配信サイトに公式チャンネルを開設した。「テレワーク合奏でお届けする応援歌」と題して、プロ野球ソフトバンク・ホークスの応援歌「いざゆけ若鷹軍団」を息の合った演奏で披露している。

 活躍の場を失ったアーティストたちは、経済的にも厳しい状況に追い込まれる。いかに、支えるかが喫緊の課題だろう。

 既にフランスやイギリス、ドイツなどでは、芸術分野で働く人々の生活を維持し、芸術活動を続けるための助成金などを盛り込んだ大規模な財政出動に乗り出した。

 日本では政府の動きが鈍く、民間ベースでクラウドファンディングによる支援が広がる。ライブハウスが再開した後のチケットを前もって購入できたり、上映が延期された新作映画をデジタル配信して、その収益をミニシアター(小規模映画館)に分配する取り組みも出てきた。いずれも佐賀県内のライブハウスやミニシアターも支援対象として登録されていた。

 外出自粛の期間、いかに文化・芸術が私たちの暮らしに欠かせないかを痛感した人も多いだろう。新たなデジタル活用とともに、文化事業をいかに下支えするかが、「ウィズ・コロナ」時代のテーマである。(古賀史生)

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