匿名投稿者を特定し損害賠償を求める手続きの現在の流れ

 会員制交流サイト(SNS)で中傷を受けた女子プロレスラー木村花さんの死去は、インターネット上に飛び交う悪質な匿名投稿の広がりと、心を傷つける被害の深刻さを浮き彫りにした。政府・与党は被害救済と投稿の抑制に向けた議論を急ぐ。ただ過度な規制は民主主義に欠かせない健全な批判や批評を萎縮させる懸念がある。政府は表現の自由とのバランスをどう取るか難しい判断を迫られている。

■2回の裁判

 4日の総務省の有識者会議で焦点となったのは「発信者情報開示制度」だ。名誉毀損(きそん)を受けた被害者がSNS事業者などに投稿者の情報を開示させ、損害賠償を請求する訴訟の道を開く制度だ。

 被害者はまず、ネット上の住所に当たるIPアドレスをSNS事業者に請求する。開示されれば、それを元に携帯電話会社などから投稿者の氏名と住所を提出してもらい、訴訟を提起する。

 しかし、情報の開示は簡単ではない。制度は開示の要件を「投稿による権利侵害が明らかな場合」と規定する。SNS事業者や携帯電話会社などは、投稿者から「不必要に開示した」として訴えられるリスクを抱える。

 通信会社の関係者は「表現の自由と訴訟リスクを考えて、かなり慎重に運用している」と説明する。被害者はSNS事業者と携帯電話会社に対し、開示を請求する計2回の裁判手続きを踏むケースが大半だ。

 氏名・住所の特定までに1年を超えることもある。ネット訴訟に詳しい深沢諭史弁護士は「最終的に賠償が認められても、裁判費用の方が高くなることがほとんど。訴訟を諦めて泣き寝入りする被害者も多い」と話す。

■厳罰化

 総務省は有識者の議論を経て、SNS事業者の開示情報に電話番号を追加する方針だ。電話番号が分かれば、住所・氏名の開示を求める裁判を省略できる。別の弁護士は「投稿者を特定しやすくなり、悪意ある投稿に対して一定の抑止力が働く」と評価する。

 与党内では厳罰化の議論が進む。1日の自民党の会合では、侮辱罪などの厳罰化を求める声が上がった。法務省も時効長期化など刑事罰の在り方を含め検討する会議を設置した。

 SNS事業者は今も悪質な投稿を削除したり利用を停止したりする措置を取るが、対策が不十分だとの批判も強い。ツイッターの日本法人やLINE(ライン)など主要事業者が加盟する団体は、自主的な対策強化に向け議論を始めた。

 SNSは重要なコミュニケーション手段だ。検察官の定年延長を認める検察庁法改正案についてSNSで抗議の声が広がり、今国会での成立は見送られた。政府関係者は「表現の自由を守りつつ、悪質な投稿に対する規制をどこまで強めるのか。難しい問題だ」と語った。【共同】

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