新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府は今月中にスマートフォンを通じ、感染者と濃厚接触した可能性のある人に注意を促すシステムを導入する。「接触確認アプリ」をスマホにダウンロードすると、一定時間近くにいた人との接触が記録され、そうした相手の中から感染者が出た場合にメッセージが届く仕組みになっている。

 米IT大手のアップルとグーグルがアプリを共同開発して技術を公開しており、政府は民間企業と連携して、シンガポールで実用化されている感染追跡アプリをモデルに機能を拡充するなどして日本版の開発に取り組んできた。感染者を把握する厚生労働省のシステムと一体的に運用する。

 スマホの記録には個人に割り振られた番号が残るが、相手の名前や住所、居合わせた時期・場所などは分からないようになっており、その記録も14日間で削除される。政府は「データは匿名化され、個人が特定されることはない」と強調。国民の7、8割にアプリを使ってほしいとする。利用者が少ないと、効果が限られてしまうからだ。

 しかしインターネット上のさまざまな情報と突き合わせることで特定の人にたどり着ける可能性は否定できず、プライバシー侵害の懸念は根強い。監視されているようで嫌だという人もいよう。新たなシステムを巡る信頼構築の道は険しい。

 政府の説明では、アプリを取得した人同士が1メートル以内に15分以上いると、互いのスマホに接触記録が残る。後日、どちらかが陽性となり、その情報を相手に通知することに同意してシステムに入力すると、もう一方に「感染者と濃厚接触した可能性があります」と通知が届く。帰国者・接触者相談センターへの相談方法なども伝えられる。

 今は保健所が感染者本人や家族から聞き取りを行い、濃厚接触者を割り出している。しかし本人の記憶があいまいだったり、感染者が増えて聞き取りに手が回らなくなったりすると、感染経路の追跡は厳しい。しかも電話相談や検査、病床確保の調整もあり、保健所の業務は逼迫ひっぱくしている。

 新型コロナ対策は長期戦になるとみられ、アプリ導入は大きな支えとなるだろう。ただ、いくつか問題もある。先行導入したシンガポールではプライバシー侵害の懸念などから、利用者は人口の約5分の1に当たる100万人程度にとどまっている。効果を上げるには最低でも6割の利用が必要と指摘されている。

 日本版は個人情報保護に重きを置いた設計になっている。しかし感染者との接触を通知された人には相手が誰か分からないとはいえ、自治体によっては感染者の性別や年代、職業などを発表している。自分が過去2週間以内に間近に接した人と重ね合わせたり、ネット上の情報を収集したりして、おおよその見当をつけることはできよう。

 通知を受け保健所に相談したことを職場に知られれば、感染者扱いされる恐れもある。トラブルに備え、新たに相談人員を確保するなど態勢を組まなければならない。

 スマホのデータが目的外に使われないよう第三者機関がチェックする仕組みも考えたい。「新たな日常」でアプリの利用を広げ、定着させていくための方策は導入を急ぐ中で十分に検討されたとは言い難く、腰を据えた議論が必要になろう。(共同通信・堤秀司)

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