JR小城駅で待機する小城タクシー。業界は運転手不足と高齢化が進んでいる=小城市

 「この中の1人でもいいから、うちに来てくれないかな…」

 小城市小城町に本社がある小城タクシーの松本建吾所長は、テレビを見ながらつぶやいた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京のタクシー会社が、オリンピック特需を見込んで雇った運転手約600人に解雇通告した―。そんなニュースだった。

 インタビューに応じていた複数の運転手は、しわの深い顔が目立っていた。「都会も運転手の高齢化は同じのようだ」

 ■平均年齢64・8歳

 小城タクシーの運転手は20人ほど。そのうち60歳未満は2人だけで40代と50代が1人ずつ。「うちの運転手の平均年齢はたぶん64、65歳になるだろう。就業規則では65歳が定年だが…」と松本所長は淡々と話し、「他社も同じような状況だよ」と付け加えた。

 「あと3カ月でもいいからハンドルを握ってくれないか」。定年を迎える運転手には声を掛けるようにしている。「本業を支えるシフトを数カ月先まで作成するには、運転手の数をそろえないと」。業務管理に頭を抱える毎日だ。

 タクシーは、バスなどが運行しない地域も回り、2009年施行のタクシー事業適正化・活性化特措法では、地域公共交通として重要な役割を担っていることを明記する。佐賀県バス・タクシー協会によると3月現在、県内のタクシー運転手の平均年齢は64・8歳。前年の同じ時期より0・5歳上がった。乗務員証を交付された県内の運転手の数は前年同期から65人減り、1248人になった。

 タクシー業界では、少しでも高い賃金を求めて会社を次々と替える熟練運転手を「ワタリ」と呼ぶ。「ワタリの存在が輝いたのは、タクシー運転手が花形の職業だったひと昔前の話で、今では見かけなくなった。各社が必死になって説得して人材の流出を防ぎ、そのまま高齢化が進んでいる」

 ■「最後の砦」

 運転手の高齢化と人材不足の二重苦にある業界。地域に根付くタクシーにとって、次の収入源として期待が掛かっているのが、コミュニティーバスなどの自治体による委託事業だ。小城タクシーは十数年前から、市からコミュニティーバスやデマンドタクシーなど5路線を請け負っている。

 「当時の経営者は『タクシーは、料金を払ってくれる客を運んでナンボの世界。委託とはいえ、バス事業は競合する客をまとめて運ぶ業務で、タクシー会社が請け負うべきなのか』と悩んでいた」。松本所長は、最初の委託事業を引き受けたときの会社の葛藤を振り返る。

 新型コロナの影響もあり本業での収入が見通せなくなっている今、市からの委託事業は、安定した収入源になりつつある。「結果的に委託事業は欠かせない存在になった」と苦笑する。

 小型2種免許を持つ松本所長は、業務管理をこなしながら配車係も担う。運転手のやりくりに都合がつかないときは、委託のデマンドタクシーを運転している。「一人3役だが、住民を運ぶ最後の砦(とりで)は、タクシー業界にあると自負している」

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