憲法改正に必要な手続きを定めた国民投票法は、実際に改憲が国会で発議された際の、賛否を呼び掛ける運動の規則を定める重要な法律だ。

 改憲の発議は現実的な日程に上がってはいないが、いわば「平時」にこそ、その問題点を整理し、対処策を講じておくべきだろう。

 通常国会で初めての衆院憲法審査会が開かれ、投票法の改正を巡って討議が行われた。自民党などは2年前に提出した改正案の早期採決を要求、立憲民主党などはインターネットが投票に与える影響など、新たに浮上した課題の議論を求め、平行線に終わった。

 衆院で改正案の採決を強行しても6月17日までの今国会中の成立は難しく、自民党も成立は見送る方向だという。当然だろう。

 国民投票法は2010年5月の施行から10年だが、ネットが生活に不可欠となる社会は施行時には想定されず、自民党の改正案には含まれていない課題だ。今の改正案にこだわるのではなく、投票法の問題点を幅広く洗い出し、対処策を講じる丁寧な議論が必要だ。

 与野党の対立の背景には、自民党が安倍晋三首相(党総裁)の主導でまとめた9条への自衛隊明記など4項目の改憲条文案がある。野党は投票法の改正案を採決すれば、CM規制の議論を置き去りにして、4項目の審議を強行してくると警戒しているのだ。

 改憲の議論には、与野党間の一定の信頼関係が不可欠だ。自民党は4項目にこだわらず、今、改憲を視野に取り組むべき課題は何なのかを、与野党で真摯しんしに討議してもらいたい。

 自民党が早期採決を求める投票法の改正案は、期日前投票時間の弾力化など、公選法に合わせて有権者の利便性を高めるものだ。野党も異論はなく、改正は必要だろう。

 ただ、投票法の課題はそれだけではない。審査会で特に取り上げられたのは、ネットの投票運動への影響だ。現行の投票法は、投票日の14日前以降に限って、改憲案への賛否を呼び掛けるテレビCMを禁じている。だが、規制の対象になっていないネット上の広告が今では一般的となり、昨年はテレビの広告費を初めて上回った。

 審査会で、公明党はCMを発注する政党側の自主規制を提唱。立民党は資金量の差が投票結果に影響を与えるとして「公正さを担保する議論が必要だ」と強調した。国民民主党は政党のCMはネットも含めて禁止し、投票運動を行う団体が使える資金に上限を設けるよう主張した。

 さらに、米大統領選や英国の国民投票で外国勢力がネットを通じた介入を行った事例を懸念する声もあった。国家の根幹である憲法の改正に外国勢力の干渉があってはならないとの指摘は説得力があろう。

 審査会では、新型コロナウイルスへの対応を巡って憲法上の課題を指摘する声もあった。自民党や日本維新の会は、政府の権限を強める「緊急事態条項」を憲法に盛り込むよう主張。立民党は法律で対応できると反論した。実際の対応を担った地方自治体の権限や、国との役割分担の在り方を憲法にどう明記するのかの問題提起もあった。

 本当に改憲が必要な条項が何なのかは、幅広い議論から絞り込んでいくべきだ。腰を落ち着けた取り組みを求めたい。(共同通信・川上高志)

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