定期路線を走る祐徳自動車の乗り合いバス=鹿島市高津原の鹿島バスセンター

 路線図を見つめながら停留所を一つずつ確かめた。「乗り合いは30年ぶりだよ」。ベテランの運転士は、慣れない交通系ICカードの読み取り機の扱いを確認した。4月上旬、佐賀市の祐徳自動車(本社・鹿島市)の佐賀営業所で、乗り合いバスの研修が行われた。参加したのは、貸し切りバスの運転士たちだ。

 同社は昨年4月、乗り合いバスを担っていた祐徳バスを合併し、貸し切りバスと相互に運転士を補完できる体制にした。新型コロナウイルスの感染拡大でツアーの中止などが相次いだことを受け、現在は貸し切りバスの運転士を乗り合いバスにシフトしている。大半は過去に、乗り合いバスの経験がある。研修期間は1週間。「運転席に座ると、昔の感覚を思い出した」

 ■ピークの7分の1

 県内の乗り合いバスの利用者数は、高度成長期の1960年代後半に年間最多の約7千万人になり、以降はマイカーの普及に伴って減少を続けてきた。近年はインバウンド(訪日外国人客)効果で持ち直してきたが、年間利用者は1千万人余りで、ピーク時の7分の1程度になっている。佐賀県南西部を中心に戦前からバス事業を展開する祐徳自動車も、厳しい経営環境に置かれている。

 乗り合いバスは利用者の低迷で赤字が避けられない一方、通勤・通学や、高齢者の暮らしの足として欠かせない。「乗り合いバスは動かすのが大前提で、減便や路線の廃止は最終手段。運行するためにどうするのか、まずは考えないといけない」と同社幹部。赤字分を国や自治体の補助金で補いつつ、貸し切りバス事業などの収益にも支えられながら路線の維持を図る。

 ■きめ細やかな対応

 「事業者任せ」とされてきた地域の公共交通。人口減少が住民の移動手段にも深刻な影響を及ぼす中、2013年に施行された交通政策基本法などの後押しで、自治体と事業者が連携する動きが広がってきた。住民との距離が近い行政が公共交通に関わることは、事業者にとってもメリットになる。

 唐津市と東松浦郡玄海町、県の3者は「地域公共交通再編実施計画」を策定し、地区ごとにバス路線の再編を進めている。会合ではアンケート調査など地元の意向を踏まえながら議論している。バスを運行する昭和自動車(本社・唐津市)の担当者は「これまで自治体との協議が中心だったのが、計画段階から地元のニーズを把握できて、より利用しやすい方法を検討することができる」と話す。

 計画は21年9月までの5年間。これまで路線の重複を解消しながら本数を増やしたり、病院や商業施設の立地状況から需要が見込めるルートにシフトしたりするなど、きめ細やかな対応ができるようになった。「効率性や利便性の向上にとどまらず、住民にどうしたら乗ってもらえるかまで関係機関で話し合っている」。官民で公共交通の役割を共有しつつ、路線を維持するための模索を続けている。

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