営業運転を終え、昭和自動車佐賀営業所に戻る新ケ江利治さん=佐賀市大和町

 笑顔で乗車する高校生たちの姿が消えていた。早朝の唐津市のバスセンター。新型コロナウイルスの感染を防ぐため、佐賀県内の学校はしばらく休校しており、5月中旬までこの光景は続いた。市内に本社を置く昭和自動車で、乗り合いバスの運転士を務める新ケ江利治さん(57)は、さみしさを感じながらハンドルを握った。

 「コロナの影響で通勤や通学は少なくなったけれど、買い物や通院でバスが欠かせない人たちがいる。安全安心に目的地まで運ぶのが仕事」。唐津市と佐賀市を結ぶ路線は約2時間。気持ちを整えてバスを発車させた。

 緊急事態宣言で、さまざまな営みが制限された時も、乗り合いバスの運行が途切れることはなかった。生活に欠かせないとして、休業要請の対象からは外された。宣言が解除された後も、新ケ江さんらはマスクを着用し、業務の合間には座席や手すりの消毒など、感染予防策を徹底している。運転士同士で毎日、健康状態を確認し合う。

▽憧れの職業

 昭和自動車は1937年に設立され、バス事業を開始した。現在は乗り合いや貸し切りバス、タクシー事業の交通インフラに加え、不動産やレストラン、保険代理店事業など、地域に根差しながら多角的な事業を展開する。

 乗り合いバスは唐津市を中心に、県内の市街地から山間部の集落まで運行しており、九州大学線など福岡県内も走る。運転士は約250人で、5日連続で乗務して1日休む「5勤1休」となっている。平均年齢は55歳で、他の業種に比べて高い。

 「子どもの頃からの憧れでね」。新ケ江さんは建設業界から運転士に転職し、14年になる。若手の育成も担当し、自らに言い聞かせるように「乗客の命を預かっている。責任ある運転を心掛けて」と伝えている。

▽50歳以上が6割

 バスの運転士はかつて、安定した職種として人気があった。しかし、2010年代以降は、長時間労働になるケースがある点や、中高年男性に依存してきた運転士の実態を背景に、全国的に人手不足が顕在化してきた。

 県バス・タクシー協会は18年度から、バス事業者の運転士の人数や年齢構成などを調査している。直近の19年度、県内の乗り合いバスの運転士は449人。うち50歳以上は276人で、6割以上を占める。コミュニティーバスを含む事業者9社のうち6社は、運転士が「不足している」と回答した。昭和自動車でも3、4年前から、運転士を募集しても集まらなくなってきている。

 ハンドルを握る間、常に緊張感を保つことが求められる運転士。新ケ江さんは気を引き締めつつ、公共交通の必要性を誰よりも実感している。「長距離であっても運転は楽しくて苦にならない。お客さんから『ありがとう』と言葉を掛けてもらうのが一番の励み」。使命感が「生活の足」を守っている。

◇   ◇

 「地域と交通」第3章は地域の公共交通を担う事業者に焦点を当てる。人口減少や人手不足の影響で難しい経営が迫られる中、生活に不可欠な路線を維持するための方策を模索する実情を描く。全6回の予定。

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