「テラスハウス」の収録現場前に供えられた花=25日、東京都内

 リアリティー番組「テラスハウス」での言動から会員制交流サイト(SNS)で激しい誹謗ひぼう中傷を浴びたプロレスラー、木村花さん(22)が23日に死去した。自殺とみられる。番組の盛り上げにSNSは不可欠だが、匿名を盾にした中傷が過激化した場合、鎮静させたくても発信者特定には高い壁があり、言葉の暴力は後を絶たない。

 ▽役割

 「ショーだからショーアップはするが台本も指示も一切ない。ドキュメンタリーと言っても問題ない撮り方」。かつて「テラスハウス」のプロデューサーは胸を張った。

 リアリティー番組は出演者が冒険や恋愛に挑む様子を収録。先が読めない展開が支持されている。こうした番組に携わった民放関係者は「若者向けなので、SNSを絡めた盛り上げは不可欠」と話す。「出演者に入れ込んだファンが、他の出演者批判をするなどして燃え始める」と言い、ある程度の“炎上”は注目度上昇につながるため織り込み済みだ。

 台本はないが分かりやすいよう、各出演者の役割は次第に決まってくるという。「テラスハウス」は男女6人のシェアハウスでの生活を映す。木村さんは、洗濯機に放置していたプロレス用衣装を同居男性が乾燥し、縮ませたことに憤った。プロレスでヒール(悪役)が板に付いていた木村さんが役割を全うした形といえるが、この場面の公開後、暴走した一部の視聴者からSNSで匿名の罵詈雑言を受け続けた。

 ▽つらい作業

 SNS上で攻撃を受けた著名人は枚挙にいとまがない。モデル活動をする30代女性は、自身がデザインした衣装が「パクりだ」などと根拠のない情報を書き込まれ、中傷の的になった。勤務先や取引先にまでクレームが舞い込み「黙っていては被害が収まらない」と警察や弁護士に相談した。

 個人で地道に集めた情報を基に弁護士の力を借り、数カ月かけて一部の発信者を特定。中傷をやめるよう書面を送った。発信者には未成年が多く、ウェブ上の誤情報に乗り、正義を気取って嫌がらせに走った人もいた。

 女性によると、プロバイダー業者などがウェブ上の情報を保全する期間は3カ月の場合が多く、素早い行動が必須。「自分で画像やURL、書き込み日時を保存しておくと相談する際に有利に働きます」。自身への中傷の再確認はとてもつらい作業だったという。

 情報開示には、弁護士への着手金だけでも数十万円する費用や時間が必要で、損害賠償請求はさらに手間が掛かる。女性は「被害者が損をする仕組みはおかしい。問題ある発信者の情報を速やかに開示する仕組みを整えてほしい」と訴える。

 ▽桁違い

 高市早苗総務相は26日、発信者の特定を容易にするため制度改正を検討する意向を示した。情報セキュリティ大学院大の湯浅墾道教授(情報法)は、悪質な匿名発信者の情報開示に何度も手続きが必要な現行のプロバイダー責任制限法について「メールやブログ時代に作られた法律で、SNS中心の現代に起きる桁違いの被害の大きさは考慮されていない。発信者の表現の自由と被害者の人権のバランスが変わっている」と指摘する。

 匿名を悪用した中傷や自粛警察を例に挙げ「拡散のスピードが速すぎて、個人で止めるのは難しい。海外事業者にも適用できるよう実効性を担保した上で、歯止めをかける仕組みが必要だ」と話す。一方で内部告発などを萎縮させる恐れがあるとして「政治家ら公人への告発や批判は区別して考えるべきだ」とした。

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