東京高検の黒川弘務検事長が安倍晋三首相に辞表を提出した。新型コロナウイルスの感染拡大を巡る緊急事態宣言下の今月上旬、2回にわたり都内にある親しい新聞記者の自宅マンションで賭けマージャンをしていた疑惑が週刊誌に報じられ、法務省の調査に事実関係を認めた。これを受けて、森雅子法相は訓告とする処分を公表した。

 官邸に近いといわれる黒川氏について政府は1月、異例の定年延長を閣議決定。次期検事総長に充てるためとの見方が広がる中、さらに内閣の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案を国会に提出し、黒川氏の定年延長を後付けで正当化しようとする法改正と批判を浴びた。

 検察の公正・独立を損なうと元検事総長をはじめとする検察OBらが次々に反対を表明。インターネット上に著名人を含め幅広い層から抗議の投稿があふれ、政府、与党は改正案の今国会成立を断念した。しかし、なお秋の臨時国会で成立を目指す姿勢を崩さず、今夏の人事で黒川氏が検事総長に起用されるかどうかが焦点となっていた。

 その黒川氏は退く。検察組織ににらみを利かせようと無理に無理を重ねた末に招いた結果ともいえ、余人をもって代えがたいと検事長にとどめた政権にとり大きな打撃となろう。もはや法改正に国民の理解は得られない。白紙撤回すべきだ。

 政府は1月末、翌月に定年を控えた黒川氏について定年の半年間延長を閣議決定。前例のない強引な人事に反発を強める野党に「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由」がある場合は勤務延長が可能と定める国家公務員法の規定を検察官にも適用できると解釈を変更したと説明した。

 だが検察官の処遇については国家公務員法に優先する特別法の検察庁法が「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」とし、これまで定年を迎えた検察官は例外なく現場から退いた。定年延長の規定はない。検察官の独立性を保つためだ。

 また検察庁は行政組織の一つだが、他の省庁と異なり、全ての犯罪に捜査権を持ち、起訴権限を独占。時には政界捜査も手掛ける。法律上、検事総長や検事長の任命権は内閣にあるが、法務・検察の人事案を尊重するのが慣例となっている。

 ところが政府はこのような仕組みを解釈変更で覆したばかりか、法制化しようとしている。検察庁法改正案には、検察幹部が役職を退く年齢に達しても、内閣の判断でポストにとどまれる特例規定が盛り込まれている。なぜ、そんな規定が必要なのか。検察を抑え込み、政権や与党に捜査が及ばないようにする以外の理由は考えにくい。

 法相は黒川氏の定年延長について「重大で困難な事件の捜査と公判に対応するため」と述べたが、事件の具体的な内容は明らかにしていない。この点、かつて東京地検特捜部に在籍した元検事らは改正案に反対する意見書で「過去に幹部検察官の定年延長の具体的必要性が顕在化した例は一度もない」としている。

 政府はいまだ特例適用の要件すら、まともに説明できない。黒川氏の辞職という事態に至っても検察庁法改正に固執し、数の力で押し切ろうとすれば、取り返しのつかない政治不信を招こう。(共同通信・堤秀司)

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