全国の新聞を見渡してみると、1面のコラムにも定番のネタがある。土用の丑(うし)の日はウナギが大好物だった歌人斎藤茂吉を、野球の話題ならベースボールの訳語を最初に使った俳人正岡子規を…。新型コロナで人気が急上昇しているのが夏目漱石の『三四郎』である◆明治41(1908)年の新聞連載は、東大に入学する主人公が九州から上京する汽車の場面から始まる。季節は夏。そう、当時は9月入学が主流だった…と話題は9月入学制の論議に。徴兵制に伴い4月入学が定着した歴史を絡めれば、格調高いコラムが一丁あがり◆しめしめと小説を読み返せば、三四郎は車中で食事し〈空になった弁当の折を力一杯に窓から放り出した〉とある。隣り合わせた男も〈食い散らした水蜜桃の核子(たね)やら皮やらを、一纏(ひとまと)めに新聞に包(くる)んで、窓の外に抛(な)げ出した〉。入学時期のことより、暑い盛りに次々ごみが降ってくる沿線住民が気の毒になる◆このところ巣ごもりで家庭ごみが増えているという。「これを機に大掃除」「テイクアウトで応援消費」「買い物は3密のない通販で」といった工夫が皮肉にも清掃現場の負担になっている◆ものを捨てたきり、その先に思いが至らない。日露戦争の勝利に浮かれていた小説の時代から、人はどれほど進歩したのか…文豪ネタは話がどうも遠大になって困る。(桑)

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