暴挙、愚挙に出るのは思いとどまったが、問題は解決していない。

 検察官の定年を延長する検察庁法改正案の今国会での成立が見送られることになった。政府、与党が、世論や野党の批判の高まりに折れた形だ。

 しかし、改正案の問題の核心は内閣や法相が認めれば検事総長など特定の幹部を、そのポストに残すことができる特例規定だ。内閣による人事をてこにした検察介入を招きかねず、忖度(そんたく)を生じさせることになるであろう、この特例を削除することが必要だ。

 この改正案を含む国家公務員法改正案は8日、衆院内閣委員会で野党欠席のまま審議入りした。立憲民主党などの野党会派による森雅子法相の出席要求に自民党が応じなかったためだ。

 15日の委員会採決を目指していた与党は要求に応じ、この日、野党も参加し審議を行った。しかし、森氏は幹部の定年延長を認める要件を「現時点で具体的に全て示すのは困難だ」と述べ、野党側が反発した。さらに野党側が武田良太行政改革担当相の不信任決議案を提出するなどしたため採決を見送っていた。

 検察庁法改正案は、検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ、63歳を迎えた検事長や検事正など幹部にはポストを退く「役職定年制」を導入する。一方で、内閣が「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めれば役職の最長3年延長も可能と規定している。

 それは権力犯罪の捜査を担うが故に政治と一定の距離を置くことが求められる検察に、時の政権が特例を使って捜査の行方を左右することが可能になる危険性をはらむ。

 政権の身内には手心が加えられ政敵には手厳しく対応する、というようなことが起きかねない。

 この懸念について安倍晋三首相は「(改正案の)趣旨、目的は高齢期の職員の豊富な知識、経験を最大限活用する点にあり、検察庁法の改正部分も同じだ。検察官の独立性を害するものではない」と否定した。

 しかし、仮に安倍首相の主張通りだとしても、将来の首相や政権のことまでは保証できない。

 政治と検察の緊張関係が崩れ、政権の犯罪に切り込めなくなれば検察の存在意義そのものが失われる。それは国政の自浄機能が失われることを意味し、国民の政権に対する信頼は損なわれる。政治は結果的に自分の首を絞めることになるのだ。

 さらに、この特例が深刻なのは政権側に悪意がなくても、検察官の組織人としての人生設計に影響することだ。定年までやりがいのある仕事をしたいと考えれば役職定年の延長を望むことになる。結果「自動忖度生産システム」になりかねない。

 検察官は公務員ではあるが、必要であれば首相ですら逮捕することができる「強大な権力」を持つ。このため厳密な公平、公正さが課せられ、同じ事案を誰が処理しても同じ結果を出すことが求められる。

 「検察官一体」の原則と呼ばれるもので、「特定の人でなければ職務が遂行できない」ということはないのだ。であるが故に、検察官に定年延長はないとされてきた。特例はこの原則にも明らかに反している。

 無関係とされているが、黒川弘務東京高検検事長の異例の定年延長も同様だ。指摘されている検事総長就任のためのものならもってのほかだ。(共同通信・柿崎明二)

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