この春、職場のフロアを引っ越した。見晴らしのいい大きな窓辺がうれしくて、「窓際になりました」と取材先で自慢すれば、相手はちょっと気の毒げに苦笑いをする。サラリーマンの社交辞令は難しいものである◆つい先日、机に向かっていると、窓にドンと鈍くぶつかる音がした。びっくりして外をのぞいたら、小鳥が羽を広げたまま地面に落ちている。土曜日まで愛鳥週間だしなぁ、と階下へ急ぐ。ツグミだろうか、黒と茶色のうろこ模様をした小鳥はちょうど、気絶から目を覚ましたところだった◆まど・みちおさんの詩「かがみ」は、哀れなスズメが大そうじの庭先にでていた鏡にぶつかってしまう。〈かがみを 見た/のではなかった/うつっている青空を 見たのだ/とんでいって ぶつかり/おっこちた とき/はじめて かがみを見たのだ〉…。会社の大きな窓にも、ひょっとして青い空が映っていたのかしら◆大空を自由に、どこへでも行けると浮かれて飛び回っていたら、思いがけず痛い目にあう。新型コロナの緊急事態宣言が解除され、県境をまたいだ移動の急増が懸念されるいま、小鳥の受難はどこか教訓じみている◆あの鳥は今ごろ、元気に空を飛び回っているだろうか。外界から見れば、こちらが大きな鳥かごみたいな窓辺にいるくせに、気になってまた外を見る。(桑)

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