〈涙こぼしても汗にまみれた笑顔の中じゃ誰も気づいてはくれない/だからあなたの涙を僕は知らない/絶やすことなく僕の心に灯(とも)されていた優しい明かりはあなたがくれた理由なき愛の灯(あかし)〉。人気デュオ・コブクロのヒット曲「蕾(つぼみ)」の一節。この歌は、亡くなった母を思って作った曲という。泣きたいくらいにつらく、悲しいことがあっても涙を隠し、無償の愛を注いでくれた母への感謝を込める◆作家の澤地久枝さんもエッセーの中で「誰にも見せられない涙を持たない人生などこの世にはないと私は思う。一人で思いきり泣くのに一番いい場所は浴室。泣いても湯上がりならば誰にも気づかれはしない」と書く◆コロナ禍で不安に押しつぶされそうになりながらも、子どもの前では泣き言を言わず、頑張っているお母さんは多いだろう。その時は分からず、随分後になって、母の頑張り、ありがたさに気づくことは多い◆一方、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんによると、無償の愛の対極にあるものは「渇愛」。見返りがないと、恨んだり憎んだりする愛情のことだそうだ。そういえば、母の世代はお裾分けがきっかけで「お返し合戦」になることも少なくない◆きょうは「母の日」。「ありがとう」を添えて何か贈ろう。「無償の愛」と言いながら、何かを期待しているのもまた、母親の方である。(義)

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