新型コロナウイルスの感染拡大とともに、感染への恐れからくる差別と偏見が広がりを見せている。とりわけ人手が足りず、防護具も十分に行き渡らない過酷な現場で治療に当たる医療従事者に対する心ない言動が目立つ。タクシーに乗車を拒否されたり、子どもが通う保育園から登園の自粛を求められたりと挙げだしたら、きりがない。

 日々、身を削る思いで職責を果たしているのに、自分ばかりか家族まで冷たい視線にさらされたのでは、やり切れないだろう。そうしたストレスが現場に影を落とし、医療崩壊を招きかねないとの懸念も指摘されている。ウイルスとの闘いになかなか終わりが見えない中で、深刻な問題だ。

 さらに感染が拡大している地域とを行き来する長距離トラック運転手は小学校から子どもを自宅に待機させるよう要請され、そうした要警戒の地域から通勤する人が職場で仲間外れにされたといったことも相次いでいる。感染しても症状が出ないこともあり、知らないうちに、うつされるかもしれない。それが怖いというのは理解できる。

 長引く外出自粛などへのいら立ちもあろう。しかし、差別は社会をむしばむ。いま必要とされている、さまざまな仕事が立ち行かなくなれば、不安や混乱の中で感染終息は一段と遠のく。一人一人が冷静に自らの言動の結果に考えを巡らせることが求められている。

 看護師らでつくる日本看護協会の調査によると、4月下旬の時点で少なくとも19都道府県の54施設で院内感染が発生。患者や医療従事者らの感染は計783人に上る。マスクや防護服、消毒液などが不足し十分な感染防止策を取れない中、マスクがスタッフ全員に行き渡らず、75リットルのポリ袋を防護服代わりに使用している医療機関もある。

 そして、差別と偏見がのしかかってくる。乗車拒否や登園自粛にとどまらない。「なじみの飲食店から来ないでほしいと言われた」「感染症病床で勤務していることを夫の勤務先に知られ、夫が休むよう言われた」といった人がいる。感染者を受け入れている医療機関に勤務しているというだけで子どもが学校でいじめに遭った例もある。

 差別は他の職業にも及んだ。愛媛県では、小学校と教育委員会が協議して4月上旬、東京や大阪など感染拡大地域を行き来する長距離トラック運転手の2世帯に子ども計3人の自宅待機を求めた。運送会社の抗議で謝罪し撤回した。今後も、子どものいじめにつながらないか、細心の注意を払わなければならない。

 ほかにも、マスクなどの品切れで客からの激しいクレームにさらされたスーパーの店員から「人間扱いされていない」「精神的に疲れた」などの声が上がっている。文部科学省は先に医療や物流など社会機能を維持する仕事を続ける人や子どもへの差別を防ぐよう都道府県教委などに通知したが、政府はさらに幅広く目配りし、差別の実態を把握してメッセージを発していく必要がある。

 医療従事者に向け、曜日や時間を決めて感謝の気持ちを伝える拍手を送ったり、支援の意思を込め建物を青色にライトアップしたりする取り組みが広がりつつある。無償で弁当を提供するなどの動きもある。感染と差別を乗り越えるため、それぞれの立場で何ができるかを考えていきたい。(共同通信・堤秀司)

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