新型コロナウイルス感染症の院内感染が止まらない。医療、福祉、介護の現場が例外なく悲鳴を上げ、医療崩壊は既に始まったとも言っていい。国は一刻も早く防護具の供給を図るとともに検査態勢を充実させ、不安を払拭(ふっしょく)するべきだ。医療機関が経営を心配せずに対策が取れるよう、緊急資金の投入を提案したい。

 院内感染による新たなクラスター(感染者集団)は、市中のクラスターと違い、患者が増える一方で医療者が離脱を余儀なくされ、感染拡大防止に二重の障害となる。体が弱っている入院患者が命の危険にさらされ、今後、欧米諸国のように国内の死者数が激増する恐れがある。

 日本看護協会によると20日までに19都道府県の54施設で院内感染が発生した。その影響は深刻だ。救急車が何十もの病院で受け入れられず、搬送時間が極端に延びた。病院以外に介護施設やリハビリテーション施設でも集団感染が起きている。この事態は各機関の落ち度とは言えない。

 感染制御に精通した医療者だけでは到底足りなくなっている。感染症指定医療機関でないのに急きょ専門病院に指定され、現場は十分な準備もなく感染対応をさせられている。事前に教育を受ける余裕もなく、感染におびえながら実地で学ぶしかない。看護師の危険手当は日に数百円である。

 一方で、ほかの病気での受診者や患者の中に多くの感染者がいることも明らかになってきた。

 防護資機材の不足がその危険を一層高めている。数少ない医療用ガウンや高機能マスク、フェースシールドを使い回したり、手作りしたりしている現状では、ミスがなくても医療者の感染は一定の確率で発生する。

 医療者はそれを知っている。だから、家族に会わないと決めた人、遺書を書いた人もいる。耐えられず退職するケースも出始めた。専門家が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を懸念するレベルだ。長丁場の闘いは必至なのに、医療者の職業倫理に甘え、決死の覚悟を強いてはならない。

 厚生労働省は24日にようやく、防護具が著しく不足した医療機関への緊急配布を発表した。ただ、ガウンやフェースシールドは「5月下旬ごろ」ではいかにも遅い。

 足りないのは、厚労省が配ろうとしている資材だけではない。医療機関や医療者個人が自前の資材調達のために使える緊急資金を配るべきだ。

 看護師増員の人件費、検査所の設置費用、寝具の頻回の交換、清掃や医療廃棄処理の増大など新たな出費は病院の資金繰りを悪化させている。

 一方で、今の厚労省に需要に応じて資材を調達する能力はない。幸い、企業が関連物資の増産を始め、流通も機能している。看護協会は離職看護師の復職を呼び掛けた。現場裁量で使える資金さえあれば個々の努力で補充できる可能性がある。

 資金をどう配るか、検討する時間の余裕はない。請求書をいったん自治体に回し、自治体が肩代わりした分は後日、国が補償するのが最も早い。

 医療現場を感染から守るために、われわれは「病院になるべく行かないこと」を心掛けたい。

 急病やけがは別だが、持病の薬の処方や定期的な診察だけなら、直接受診しなくても電話やオンラインで可能な場合がある。かかりつけの医師や薬局に相談してほしい。(共同通信・由藤庸二郎)

このエントリーをはてなブックマークに追加