安倍晋三首相は、新型コロナウイルス対策として公明党が求めた現金10万円の一律給付を表明し、決定済みの2020年度補正予算案の組み替えを関係者へ指示した。緊急経済対策の決定から10日足らずの方針転換となる。コロナ禍で大勢の国民が生活を脅かされている。政治の迷走で支給をはじめ対策が遅れることは許されない。
 今回の経済対策は今月7日、感染拡大に伴う休業などで収入が減った世帯に30万円の現金を支給することを柱に決定したばかり。それに合わせて政府は東京、大阪、福岡など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。
 一律10万円案の詳細は不明だが、先に決定した1世帯30万円の現金給付は取り下げられる。公明党はかねて前者を主張していたが、対策は安倍首相の意向で後者にまとまった経緯がある。
 しかし今回、公明党の山口那津男代表が強硬に押し返し、所得制限を設けず支給する案を安倍首相が受け入れた。30万円案は給付対象が限られる点に与党内からも批判が高まっていた。
 対策費を盛り込んだ補正予算案も決定済みで、30万円給付を前提に編成されたため、一律10万円では組み替えが不可欠。予算案の国会提出は当初20日の予定だったが1週間程度遅れる見通しだ。
 心配されるのは予算案成立と対策実行が後ろへずれ込む点である。当初案でも支給は早くて5月とされ、迅速な支援を必要とする人々の不満と不安は強い。
 この点について山口代表は「政治がスピーディーに意思決定すれば、月内に成立させることは不可能ではない」と述べた。であれば政府、与党は、野党に譲れる点は譲ってでも一日も早い補正成立と対策実行に全力を挙げるべきである。
 公明党の主張が通った形の一律10万円給付だが、問題は山積している。
 まずは、所得制限を設けなければ、高所得で休業などの影響がほとんどない世帯にも分け隔てなく支給される点だ。
 収入面の不安がない世帯では、現金がそのまま預貯金となる可能性が高い。過去に経済対策として実施した給付金はそのため効果が乏しかった、と政府内にも反省がある。そのような手法を繰り返していいだろうか。
 それでいて当初案より給付減となる世帯が出てきかねない問題がある。
 例えば、単身世帯で収入減により30万円の支給が見込まれたのに1人10万円では受取額が減ってしまうケースだ。困窮世帯の納得を得られる制度設計が欠かせない。
 一方、安倍首相は一律給付について、緊急事態宣言を全国へ拡大し「外出自粛をはじめ、さまざまな(国民の)行動が制約される」ためと説明した。だが、10万円もの大金を全国民に配れば消費活動の刺激は避けられない。これでは感染抑止に矛盾するのではないか。
 そして財源は、国民全員に10万円となれば単純計算で12兆円超に膨らむ。現状では赤字国債で賄わざるを得ず、「借金によるばらまき」との批判は免れられないだろう。
 1世帯30万円の実施に向けて関係省庁と申請を受け付ける市区町村は準備を急いでいた。今回の方針転換でその作業の混乱も予想される。
 安倍首相には、これら対策の実務を担う関係者を含め、幅広い国民の理解を得られる説明への責務がある。(共同通信・高橋潤)

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