喫煙は新型コロナウイルスの感染や重症化のリスクを高めるとの警告が相次いでいる。日本では受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が4月1日に全面施行され、不特定多数が利用する施設が原則禁煙となったが、受動喫煙を防ぐ効果が乏しい上に、新型コロナ対応でも欠陥がある。規制強化を急ぐべきだ。

 4月から新たに規制対象となったのは、飲食店や職場、ホテルのロビー、公共交通機関など。加熱式たばこも規制され、悪質な違反者には罰則が科される。ただし、飲食できない喫煙専用室は設置できる。飲食店のうち資本金5千万円以下、客席面積100平方メートル以下の既存店は当面の間、「喫煙可」と表示すれば喫煙が認められる。

 最も受動喫煙しやすいといわれる飲食店で禁煙が進んだのは一歩前進だが、手放しで評価することはできない。小規模店の例外規定が抜け穴となっているからだ。厚生労働省の改正法施行前の推計では、喫煙専用室を設けずにたばこが吸える飲食店は55%に上った。多くの飲食店で禁煙が行われず、健康被害が続いているとみられる。改正法がざる法と批判されるゆえんである。

 新型コロナウイルスは受動喫煙を上回るリスクを突き付けた。最大の問題は、屋内の喫煙専用室がクラスター(感染者集団)の発生源になる恐れが強いことだ。喫煙専用室は密閉されていて換気が悪く、利用者が近距離でマスクを着けずに会話をするため、密閉、密集、密接の「3密」の条件を満たしている。屋外の喫煙所も閉鎖型の場合は同じである。

 日本禁煙学会は3月に、緊急にすべての喫煙室、喫煙所を閉鎖するよう求める見解を公表している。強い危機感がにじむ内容だ。

 さらに、最近のいくつかの研究で、喫煙経験のある人は非喫煙者に比べて、新型コロナ感染症が重症化する割合が高いことも明らかになった。

 たばこを吸う権利は尊重されなければならない。自分の健康を損なうことを承知で喫煙するのは哲学者ジョン・スチュワート・ミルが論じた「愚行権」に属する。しかし、喫煙専用室を介して新型コロナの感染が広がるとすれば、この権利の範囲を超えている。早急に何らかの規制が必要だ。

 企業は社内の喫煙専用室の閉鎖に動きだしてほしい。すでに多くの企業が閉鎖に踏み切っている。喫煙専用室を設けている飲食店も、本当に必要か再考してほしい。各種の調査で、店内完全禁煙により来店客が増えた例が報告されている。

 厚労省には、改正健康増進法の本来の目的である受動喫煙防止と新型コロナウイルス対策の両面から規制強化に着手するよう求めたい。小規模飲食店の例外規定は縮小か撤廃を、喫煙専用室は廃止を目指すべきだ。

 難題が一つ生じる。会社などで喫煙専用室がなくなると、路上禁煙の地域ではたばこを吸う場所がなくなってしまうことだ。条例を柔軟に運用するなどして、路上喫煙をある程度容認するしかないかもしれない。

 たばこを吸う人は、これを機に「卒煙」に挑戦してはどうだろうか。コロナ禍により、喫煙がもたらす健康被害は桁違いに大きくなった。今、たばこをやめることは自分のためにも人のためにもなる。政府には禁煙治療の支援拡大を望みたい。(共同通信・柳沼勇弥)

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