『父、芹沢光治良、その愛』を手にする井手恵さん=伊万里市大坪町の西念寺

 昭和に活躍した作家、芹沢光治良(こうじろう)(1896~1993年)の次女が在りし日のことをつづった随筆「父、芹沢光治良、その愛」が出版された。生涯を文学に捧げた作家の素顔を垣間見ることができる貴重な記録で、親子の知人である伊万里市の西念寺住職、井手恵(さとし)さん(65)が出版を後押しした。

 芹沢は「巴里に死す」「人間の運命」などの代表作があり、日本ペンクラブ会長を務めた。晩年は「文学はもの言わぬ神の意思に言葉を与えることだ」との信念から、神を題材にした作品世界を展開、96歳で亡くなる直前まで書き続けた。

 井手さんは浄土真宗の僧侶で、宗教や文化関係者に幅広い人脈を持つ。1990年代には佐賀新聞で計5年間、さまざまな宗教者と書簡を交わす「心のシルクロード」を連載。宗教や宗派の垣根を超えた活動に導いてくれた一人が芹沢で、生き方に迷った30代の時に教えを請うた。

 今回出版された「父、芹沢光治良、その愛」は、芹沢の次女、野沢朝とも子さん(90)=東京都=が自費出版した2冊をまとめたもの。戦中戦後の芹沢家の生活や父への思いなどがつづられており、交流がある井手さんが商業出版を勧め、出版社への橋渡しをした。

 井手さんは「信仰について絶えず考え続けた親子の姿に胸打たれる。ファンだけでなく多くの人に読んでほしい」と話す。税込み1870円。明窓出版、電話03(3380)8303。

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