新型コロナ禍は、地方に生きる私たちの暮らしまで一変させようとしている。政府は16日、新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の対象地域を全都道府県に拡大した。

 地方ほど医療体制がぜい弱で、死亡リスクの高い高齢者が多い実情を考えれば、これ以上の感染拡大を防ぐためのやむを得ない措置だろう。とはいえ、現時点ではまだ市中感染が見つかっていない県内の状況と、医療崩壊まで懸念されている都市圏との「温度差」は否定できない。

 行動の自粛や休業要請が地域経済に与える打撃は、その基盤の弱さにおいて都市圏より深刻化しかねない。宣言の対象地域の拡大は、こうした地域の実情に十分配慮したうえで、住民が対策を「わがこと」化していく納得性の高いものでなければならない。

 今回の措置は、大型連休中の人の動きを最小化する狙いという。政府にしてみれば、3月の3連休後に感染が拡大した反省でもあるだろう。ただ、すでに宣言が出された東京都では休業補償をめぐる線引きのあいまいさから営業を続ける店舗もあり、人の接触が依然続くなど対策が行き届いていないとの批判も出ている。

 これまでに経験のない手探りの非常措置ではあろうが、ただやみくもにエリアを拡大すればすむというものではなく、財政支援の裏付けを含めた効果的な封じ込め策について、先行地域で浮かび上がった課題を共有していくことが欠かせない。

 佐賀県はすでに、政府が全国に繁華街への外出自粛を要請したことを受け、バーやナイトクラブなどの利用自粛を呼びかけているが、宣言の対象地域の拡大方針を受け、山口祥義知事は「(対応が)がらっと変わると思う」と語った。新学期が始まったばかりの学校はどうなるのか、自粛を求める業種は広がるのか。これまで感染状況に即して比較的穏便だった対策がどう変わっていくのか、県民にわかりやすく伝えていく責任がある。

 コロナ禍は都市への一極集中という社会的リスクをあぶりだした。ヒト、モノ、情報が自由に行き来する時代にあって、地方もその影響から逃れられないとはいえ、全国一律の対応を強いられるのは、社会をより息苦しいものにしてしまう。

 確かに「未知のウイルス」は怖い。ただ、そのために不自由が当たり前になって、「しょうがない」という思考停止が広がれば、地方が元来持つ「ゆとり」まで失われ、人の心は荒れ果てる。感染拡大の防止が最優先であることはもちろんだが、私たちが日常をどう取り戻していけるか、安心の再構築も同時に進めていかなければならない。(論説委員長 桑原昇)

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