先日、79歳で亡くなった作家で自然保護活動家のC・W・ニコルさんは県内でも何度か講演している。その際、好きな日本語の一つに挙げたのが「いただきます」だった。〈常に自然に感謝して、畏敬の念を持つ姿勢が表現されている〉と、日本文化の真髄を見ていた◆命をささげてくれた生き物や植物、それを育ててくれた農家や畜産家に漁師、それらを運んでくれた人、料理を作ってくれた人…。「いただきます」は自分が生きている世界への感謝ではないか、と著書『C・W・ニコルの生きる力』にも書いている◆新型コロナへの緊急事態宣言で、一段と消費の落ち込みが懸念される。苦境に立つ飲食店などサービス業の背後には、それを支える多くの生産者がいる。108兆円もの緊急経済対策を決めた政府に「自分が生きている世界」はしっかり見えているだろうか◆感染拡大によって生産拠点を過度に中国に依存した製造業は機能不全に陥り、インバウンド(外国人観光客)偏重の観光サービスも大打撃を受けている。私たちを苦しめているのは、海外にばかり頼る社会のいびつさのような気もする◆米も野菜も肉も、スーパーマーケットで作られたものではない。〈自然がなければ人間はない。街に住む人びとは、それが分からなくなっている〉。ニコルさんの遺(のこ)した警句が胸に響く。(桑)

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