松尾芭蕉に《さまざまの事おもひ出す桜かな》という一句がある。芭蕉45歳の作で、故郷で桜を見た時の万感の思いを詠んだとされる◆入社後、最初に配属された部署の花見は夜勤職場だったため、全員が仕事を終えた深夜零時半にスタート。寒さに震えて桜の美を楽しむ余裕はなく、小料理屋に頼んだおでんのおいしさだけが記憶に残る◆3月末、桜巡りを楽しんだ。子どもを連れた家族が桜の下で弁当を広げている。母の手料理は格別だろう。親は子どもの笑顔に幸せを感じ、子どもたちは大切な思い出として記憶の引き出しに収める。1本の木に何万枚もの花びらを咲かす桜の大樹から力をもらい、桜の下に集う人々の「笑顔の花」に元気をもらう。それが花見の楽しさだと、改めて気づかされる◆そんな和やかな光景とはかけ離れた首相主催の「桜を見る会」。1年前、公私混同と批判され、今年は中止になった。納税者として忘れてはいけない問題だ◆まさに春らんまんとなったきのう4日、本紙は県内の桜の名所をカバー版で紹介した。記憶の引き出しを開く鍵となっただろうか。コロナ禍でも、自然は季節の移ろいを忠実に映し出す。今年、花見ができなかった人も来年はきっと…。あす6日からは学校の新学期も始まる。校庭に広がる子どもたちの「笑顔の花」も楽しみに待ちたい。(義)

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