展望所周辺を覆うように花が咲いた桜の木々。眼下には佐賀平野が広がり、豊かな有明海も見える=白石町深浦の桜の里(ドローンで空撮)

 毎年見慣れた風景なのに、いつも心動かされてしまう。桜にはそんな力がある。花に宿って人の心に憧れをかきたてるものがある。

 あの柔らかな淡いピンクは、どんなふうに色づくのだろう。

 染め物の世界では、自然の桜色を花びらからではなく、開花する直前の、黒いごつごつした樹皮から採取するという。詩人大岡信さんの随筆に、そんな話があった。

 桜の美しさは、花だけにあるのではない。最上の色になるために、葉も幹も枝も、懸命に色素を送り続ける。木全体が自分を全部使い果たして花となって咲くのだ、と。

 花盛りの樹下に立つと心が揺さぶられるのは、ようやく色づいた桜のよろこびが、いのちの切なさが胸にしみてくるからなのかもしれない。

 世の中が不安で覆われたこの春、花の名所に足を運ぶこともためらわれる。せめて紙面で、県内各地の「桜だより」をお届けしたい。

 「花に嵐」のときも、また巡る春のために、樹皮の下でじっと色素を蓄える。桜花の一ひら一ひらに、人のいとなみを重ね合わせてみる。(佐賀新聞論説委員長 桑原昇)

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