人には誰かに意志を伝え、自分の気持ちを表現したいという欲求があり、相手が人とは限りません。動物の言葉を理解する名医ドリトル先生の話をご存じの方は多いでしょう。あらゆる動物と話せる能力を身に付けることはできないけれど、大切なペットと会話したいと願う人は多いし、私のペットは人の言葉を話せると言う方もいます。

 2002年に、現タカラトミーから犬語翻訳機が発売されました。鳴き声をリアルタイムで分析し、「フラストレーション」「威嚇」「自己表現」「楽しい」「悲しい」「欲求」の6種類の感情を判定して知らせてくれる道具です。イグノーベル平和賞を受賞したことでも話題になりました。翌年、猫語翻訳機も発売されました。

 日本で犬猫語の翻訳機が発売されたころ、海外では赤ちゃん版泣き声翻訳機が販売されていました。泣き声から判断できる感情は、「眠い」、「空腹」、「不快」、「痛い」など3~5種類あるようです。他の動物に比べて1年ほど未熟な状態で生まれてきた赤ちゃんが、生きるためには誰かの世話を受けなければなりません。そのため、赤ちゃんは泣きで欲求を伝える必要があります。泣きは空腹やおむつなどシンプルなものから始まり、日数が重なるに従って複雑化します。ピークは生後1~2か月で徐々に収まりますが、理由がはっきりしない激しい泣きが1日5時間以上続くこともあります。

 半数以上の母親が産後1カ月までに対処の難しい赤ちゃんの泣きを経験しています。親の健康状態が悪ければ、強くストレスを感じます。人工知能を用いた翻訳機の正確さは、シンプルな泣きでは高いかもしれませんが、それくらいは母親だって産後入院中にわかるようになります。大事なのは日々複雑になる赤ちゃんの泣き声の特徴を理解し、どう対処したらよいかについて経験を積むことです。育児の経験者や専門家が寄り添い支援するだけでなく、赤ちゃんの泣き声に寛容な社会をつくりましょう。(佐賀大学教育研究院医学域医学系=母性看護・助産学領域=教授 佐藤珠美)

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