浮かない春にも桜は盛りを迎えている。朝桜、夕桜、夜桜…一日の時間の移ろいで微妙に変化する風情もいいが、やはり真昼の花盛りが見事である。ソメイヨシノがピンクに色づくのは、青と赤の光を多く含む太陽のおかげという◆陽ざしをいっぱいに浴びて花開く。人も外の世界に触れた方が色めくものなのだろう。来春から、希望すれば70歳まで働き続けられるよう企業に努力義務が課されることになった。少子高齢化で労働力が不足し、社会保障の先細りも心配される。リタイア後、家にいてゴロゴロするくらいなら社会の担い手に、というわけである◆今や65歳以上の4人に1人が仕事に就き、「70歳まで働きたい」と考えるシニアは8割にものぼるとか。年金不安を背景に、会社人生を「いさぎよく散る」時代ではなくなっている。企業にしてみれば、人件費の負担増や若い世代の採用抑制など、活力が奪われる懸念もあろう。働き手と企業双方にとってメリットのある処遇のあり方に、知恵の絞りどころである◆日本人の美意識に底流する「いさぎよく散る」桜は、実は栄養のよくない生育条件の悪い土地に育った木という。〈天地の利と人の努力と世のゆたかさ、ゆとりのあるときには、桜の花はけっして散りいそがない〉(中井久夫『記憶の肖像』)◆つくづく人も桜のようである。(桑)

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