1964年の東京五輪の聖火リレーは沖縄からスタートした。激しい地上戦で焦土と化してから19年。もくもくと白い煙を吐くトーチが敗戦から立ち上がる熱気を告げるかのように列島を駆け抜けた◆沖縄は当時、米軍の占領下にあった。琉球絣(かすり)の婦人から小学生まで、日の丸の小旗を打ち振って聖火を迎えた。式典で久しぶりに聞く「君が代」にそっと目頭を押さえる人の姿もあった。本土に復帰したような高揚感に人々は感激したのだった◆歓声と人波と。2020東京五輪の聖火もきのう福島県をスタートするはずだった。ところが、よもやのコロナ禍である。1年程度の延期が濃厚となり、聖火リレーは見送りになった。いまごろは佐賀市出身吉岡徳仁さんデザインの桜のトーチが沿道を盛り上げていたろうに。中止にならなかっただけでもと思いたい◆56年前、沖縄に聖火が届いた時、人々は「ようこそ平和の火」と出迎えた。今回は東日本大震災からの復興を願う「復興の火」である。だが、いまだ避難生活を続ける人が約4万8千人。故郷に戻れない現実がある。「復興」という言葉の独り歩きであってはならない◆くしくも来年は、震災から10年の節目。ウイルス終息はもちろんだが、掛け声だけではない真の復興の姿を世界に発信できる五輪になることを願わずにはいられない。(丸)

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