中国の習近平国家主席が1月20日に新型コロナウイルス対策へ大号令を掛けて約2カ月。ウイルスは欧米などに広がり、世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的大流行)」と表明する一方、中国の衛生当局は国内の「流行のピークは過ぎた」と明言した。

 中国は世界的な感染症制圧に向け、自国の経験や感染症データを提供するなど積極的に国際貢献に努めてほしい。また、再発防止のために発生源を究明し、情報隠蔽(いんぺい)、初動の遅れを生んだ非民主的な政治体制の見直しを行うべきだ。

 習氏は10日、新型ウイルスの感染者が最初に見つかった湖北省武漢市を初めて視察し「重要な成果が出ている」と強調した。習政権は武漢を封鎖し、各地で人々の外出を禁止する強権的な手法でウイルスを封じ込めた。

 新型ウイルスの感染者数は中国本土の8万人余に対し、世界全体では約17万人に達し、防止対策の主戦場は中国から欧州に移行した。

 中国はイタリアへ医師団を派遣し、WHOに対して2千万ドル(約21億円)の寄付を決めた。日本の専門家によれば、中国は感染症について詳細なデータを提供しているという。こうした国際的な協力は評価したい。

 ただ、中国を発生源とし、初動の遅れを指摘する米国の批判に対し、当局者は「中国が発生源とは限らない」「米軍が持ち込んだのかもしれない」と反撃し、共産党系紙は「欧米の感染症対策は手ぬるい」と指摘した。

 新型ウイルスは武漢で食用の野生動物から人に感染した可能性が高く、中国も2月に野生動物の取引を禁止した。感情的で説得力のない反論は、中国の対外イメージをさらに悪化させるだけであり、厳に慎むべきだ。

 習氏は新型ウイルスとの「人民戦争」の勝利は近いと誇示して自らの権力基盤の強化を図り、経済活動を正常化しようとしている。しかし、初動の遅れや情報隠蔽に加え、長期の外出禁止、食料や日常品の不足に対する庶民の不満は根強い。

 武漢市の病院の女性医師は昨年暮れ、ウイルス性肺炎患者の発生に危機感を覚え、他の医師らにインターネットで情報を送信したところ、当局側から厳しく口止めされた。「大声を上げ続けるべきだった」との医師の話は官製メディアの電子版でネット上に広がり、共感を呼んだ。

 3月初め、孫春蘭副首相が武漢市を視察した際、食料品が配られると、多くの住民が「全てうそだ」「高い食材を買わされている」と大声で抗議する騒ぎがあった。

 この背景にある非民主的な政治体制や、監視カメラや顔認識、衛星利用測位システム(GPS)を使った強権的な国民統制は改めるべきだ。

 2年前からの米中貿易摩擦に新型ウイルスが重なり、経済の停滞も極めて深刻だ。1~2月の輸出額は前年同期比17・2%減となり、1~3月期の経済成長率はゼロかマイナスとの見方が出ている。昨年1年間の成長率6・1%に比べ大きく落ち込むのは必至だ。

 政府は感染症の終息を見越して、生産再開を呼び掛けるが、いったん停止した経済活動の正常化は容易ではない。ウイルス感染の拡大により、世界全体の経済低迷の影響も大きい。中国は感染症の終息後も疲弊した経済の立て直しという困難な課題を背負う。(共同通信・森保裕)

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