花をモチーフにした詩画で知られる星野富弘さんに、母を思う一編がある。〈神様がたった一度だけ/この腕を動かして下さるとしたら/母の肩をたたかせてもらおう/風に揺れる/ペンペン草の実を見ていたら/そんな日が/本当に来るような気がした〉◆星野さんは中学の体育教師になって間もない24歳のころ、クラブ活動の指導中に事故で首を傷め、肩から下の自由を失った。9年に及ぶ入院生活のなかで、口に筆をくわえて絵を描き、文字をつづる詩画の世界を切り開いていったわが子を、寡黙な母は献身的に支えたという◆障害者施設「津久井やまゆり園」で理不尽に命を奪われた19人の入所者にも心寄せる母や父がいて、きっとそれぞれに献身的な愛情に支えられた人生だったろう。犠牲者の一人、美帆さんのお母さんが公判で述べた言葉が胸に残る。「娘に障害のこと、自閉症のこと、いろいろ教えてもらいました。私の娘であり先生でもあります」◆親を不幸にするために生まれてきた子はいない、という。それなのに、「意思疎通のできない重度障害者は不幸を生む」と被告はゆがんだ考えを変えることはなかった。心の中は解き明かされないまま、きのう死刑が言い渡された◆最後まで理解できない「おかしな人」の犯罪―そうやってまた、社会は忘れてしまうのかもしれない。(桑)

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