毎日800リットルの牛乳を搾る横尾文三さん。「給食の需要がなくなると乳価は確実に下がる」という=神埼市脊振町服巻のミルン脊振牧場

 新型コロナウイルスの感染拡大で、佐賀県内の農業にも影響が出ている。急激な需要の落ち込みは、酪農家や佐賀牛など肥育農家に大きな打撃を与えている。給食の突然の休止で、酪農家は乳価の下落を懸念。インバウンド消失や国内の自粛ムードで、高級な牛肉の消費も急ブレーキがかかる。生産者は「対応の仕様がない。いつになったら終息するのか」と悲鳴を上げる。

 

 酪  農 

 県内では、約8万人の小中学生に給食で牛乳を提供している。突然の休校で、その分の牛乳の需要がなくなることになった。神埼市で乳牛30頭を飼育し、毎日800リットルの牛乳を搾っている横尾文三さん(71)は「給食に出ないとなると、牛乳1キロの値段が3、4円は落ちる。もともと牛乳生産は利益が少ないため、大きな打撃だ」と話す。

 県によると、県内は2019年で43戸の酪農家があり、乳牛1640頭がいる。牛乳の年間生産量約1万4千トンで、この2割が給食用となる。

 牛乳は、指定生産者団体が一括して集めて、飲用乳や、チーズ、バターの原料となる加工乳に振り分けてメーカーなどに納める。このため、毎日搾る牛乳の出荷ができないという事態にはならない。ただ、飲用乳は1キロ115円ほどで加工乳より40円近く高いため、給食用の需要がなくなると、乳価は下がるという。

 加工乳が多くなった場合、1キロ11円ほど国の補助が出るが、あくまで差額の一部。県畜産課の担当者は「国の支援策がまだ分からないが、県も融資などで酪農家に影響が出ないよう対応したい」と話す。

 県内では近年、高齢化で酪農を廃業する人が増えている。県酪農協議会の会長でもある横尾さんは「昨年4月に乳価が上がったことで、ようやく県内の生産量の減少に歯止めがかかり、生産基盤が安定したと思っていたのに…」と嘆く。酪農家は、肉用牛の子牛も生産し経営を支えているが、和牛の価格下落で、こちらも打撃という。

 

 肥育牛 

 旺盛なインバウンド需要に支えられてきた佐賀牛などの高級和牛への影響も大きい。JAさが畜産販売課は「今月に入り、牛の値段は急激に下がってきた。特に上等な部位で下げ幅が大きい」と指摘する。東京市場での牛の枝肉価格は最上位の5等級で、2月が1キロ2404円と前年同月比で183円減。今月(9日現在)はさらに368円下がった。同課は「300円下がれば、牛1頭分(枝肉500キロ)で15万円のマイナスが出る」と説明する。

 関係者は、海外の観光客によるインバウンド需要が失われた痛手は大きいとみる。「高級な肉を買って、自宅で食べる人はいない」といい、宴席のキャンセルなどによる消費落ち込みが、追い打ちをかけている。

 唐津市鎮西町で佐賀牛730頭を育てている佐賀牛宮崎牧場の宮崎陽輔社長は「肉屋さんからは、和牛は価格が安くても要らないと言われる」と苦笑い。今まで好調だった外食の焼き肉も、知り合いの店舗が「平日は7割、8割減」と嘆いているという。個人的な会食さえ控えるような、社会全体の自粛ムードに「今まで経験がない事態。全く手の打ちようがない」と嘆く。

 「長く飼えば餌代はかさむし、牛の事故のリスクも増す」といい、価格が下落したからと、牛の出荷を見合わせることもできない。

 宮崎社長は、現状に「いいことは一つもない」と話し、「早く終息して、せめて、これから先の行楽シーズンで需要が戻ればいいが」と気をもんでいる。

 

 野  菜 

 野菜への影響について、佐賀市の佐賀青果市場は「値段で目に見えた変化はない」と話す。「給食用や飲食店へ納入していた業者の買い付けが減ったと聞いているが、スーパー向けなどは出ている」という。

 トマトやキュウリ、イチゴなどを出荷しているJAさが杵藤エリアも「今のところ、特別に問題なく動いている」。学校給食も含めた業務用は減ったが、量販店やスーパーなどは動いているという。外食が減った分、内食が増え、全体的には変わらないようだ。

 

 コ  メ 

 外食用が減る一方、首都圏などで家庭の備蓄用とみられる購入が増え、品薄感も出たコメ。JAさが米穀販売課は「量販店の要望で出す量が増えたことはあったが、あくまでも一時的。県内向けのコメの出荷は全く平常」としている。

 昨年は県内のコメの作況が58と全国最低で、さがびよりは1等米が不足し、急きょ2等米も売り出す事態となったが、同課は「しっかりと計算し次年産が出るまでの量を確保しているので、全く問題ない」という。

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