9年目の「3・11」は静かに過ぎた。それは新型コロナのせいばかりではなかったのかもしれない◆〈「震災の時に貢献したことは」面接質問集に加はる〉。梶原さい子さんという宮城県の高校教師が詠んだ一首がある。日常から消えつつある災厄の記憶が、受験というシステムの中に輪郭をとどめている現実にうすら寒さを感じる◆近年、自然災害の多発とともに、ボランティアなどで「貢献したい」と考える人たちは増えてきた。ところが、英国の慈善団体が発表する「世界の人助け指数」によると、日本はこの10年の総合ランキングで126カ国中107位だったという◆ひと月に「助けが必要な見知らぬ人を助けたか」「寄付をしたか」「ボランティアをしたか」の三つの観点でアンケートを行い、各国の寛容度を採点した。日本は「見知らぬ人を助けたか」がなんと最下位。非常時には見知らぬ他人どころか、家族さえ後回しにしそうなわが身には耳の痛い結果である◆吉野弘さんの詩「夕焼け」を思い返す。満員電車で少女が自分ばかり何度も席を譲っている。3度目に老人が席の前に立ったとき、彼女はうつむいて席を譲らなかった。電車を降りて詩人は思う。〈やさしい心に責められながら/娘はどこまでゆけるだろう〉。見て見ぬふりにさらされて、やさしさはいつも孤独である。(桑)

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