東京電力福島第1原発事故から9年、日本の原子力発電が、失われた信頼を取り戻したというには程遠い状況だ。原発へのこだわりを捨て、世界の潮流に沿って再生可能エネルギーへの転換を進めないと、日本の社会と経済は大きなリスクに直面することになる。

 現行のエネルギー基本計画は原子力を「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけている。

 この9年を振り返り、この考えにどれだけの人が賛同するだろうか。

 原発事故後にまとまった新たな規制基準をパスして再稼働にこぎ着けたのは9基にすぎない。しかも九州電力川内原発1、2号機、関西電力高浜原発3、4号機が、テロ対策のために義務付けられた施設の設置遅れのため停止を迫られる。

 四国電力伊方原発では、制御棒の引き抜きトラブル、停電で使用済み燃料プールの冷却が43分間停止するなどの異常事態が相次いだ。福井県高浜町を舞台とする関西電力の裏金問題、日本原子力発電敦賀原発2号機での安全審査データの書き換えといった不祥事も多発し、原子力への市民の信頼は低下する一方だ。

 しかも、原発には、仮処分による運転の停止など「訴訟のリスク」もつきまとう。トラブルの多発が影響し、四国電力は、広島高裁による伊方3号機運転差し止め仮処分決定に対する異議申し立てを一時見合わせた。

 事故後「国が前面に出る」とした高レベル放射性廃棄物の処分地選定にもまったく進展が見られず「トイレなきマンション」といわれる状況も変わらない。今後、再稼働が進めば、使用済み核燃料や処分の見通しのない放射性廃棄物がたまり続けることになる。

 今の計画では「重要なベースロード電源」とした原発の電気が、総発電量に占める比率を2030年度に20~22%にすることになっている。だが、再稼働の遅れやトラブルなどで17年度の発電比率は約3%にすぎない。目標達成が不可能なことは明らかだ。

 原発は世界的にみても停滞が目立つ。世界の19年の発電量は前年に比べわずかに増えたが、ピーク時には及ばない。米国やロシア、台湾、スウェーデン、スイス、ドイツなど多くの国と地域で古くなった原発の廃炉が進む一方、新たに発電を開始したのはロシア、中国、韓国などわずかだ。

 日本政府が当てにしていた原発が動かないことは、二酸化炭素の排出量が多い石炭火力発電への依存度が高まるという大きな問題も生み、10年度には28%だった石炭火力の比率は32%にまで高まった。地球温暖化の原因となるとして多くの先進国で廃絶が進む中、日本で続く石炭依存には世界各国や国連から厳しい批判が出ている。

 原発事故と温暖化のリスクを減らし、持続可能なエネルギー社会を築くには、徹底した省エネと再生可能エネルギーの拡大を図るしかない。

 頼りにならない原発に見切りをつけず、いつまでも多額な投資を続けることは日本の経済や社会にとっての大きなリスクとなる。

 この現実から目をそらさず、脱原発と温暖化防止に向けたエネルギー政策の大転換を進める必要がある。原発事故以来の9年間、われわれは十分すぎるくらいの教訓を得たはずだ。(共同通信・井田徹治)

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